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コラムSalonから 農薬をめぐるバイアス記事の好例 (グリホサート)

 

◎除草剤グリホサートをめぐる恐るべき事態が勃発

食生活ジャーナリストの会代表 http://query.nytimes.com/search/sitesearch/?action=click&contentCollection&region=TopBar&WT.nav=searchWidget&module=SearchSubmit&pgtype=Homepage#/agriculture 小島 https://yurui.jp/%e8%bc%b8%e5%85%a5%e9%a3%9f%e5%93%81%e3%81%8b%e3%82%89%e8%be%b2%e8%96%ac%e3%81%8c%e6%a4%9c%e5%87%ba%e3%82%b0%e3%83%aa%e3%83%9b%e3%82%b5%e3%83%bc%e3%83%88%e3%81%a3%e3%81%a6%e3%81%aa%e3%81%ab/ homify.jp/ideabooks/7686864/%E3%82%B0%E3%83%AA%E3%83%9B%E3%82%B5%E3%83%BC%E3%83%88%E3%81%A8%E3%81%AF%EF%BC%9F%E3%83%9A%E3%83%83%E3%83%88%E3%81%8C%E3%81%84%E3%81%A6%E3%82%82%E5%AE%89%E5%BF%83%E3%81%AA%E3%81%8A%E5%BA%AD%E3%81%AE%E3%81%8A%E6%89%8B%E5%85%A5%E3%82%8C%E3%80%80%E9%99%A4%E8%8D%89%E5%89%A4%E3%81%A8%E3%81%AE%E4%BB%98%E3%81%8D%E5%90%88%E3%81%84%E6%96%B9 href="https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q10218610925">https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp https://glyphosate-fact-sheet.com 正美 グリホサート

  ──科学者へ、決して他人事ではありません──

 

悪意に満ちたバイアス(偏った)記事がいまなお健在だという好例の記事を見つけた。知識層が最も好むとされる大手新聞(8月24日付)の朝刊記事だ。グリホサートという除草剤が発がん性や胎児への影響をもたらすと指摘する記事だが、先進国の公的機関は明確に否定している。こういう記事が続く限り、活字メディアはいよいよ専門家から見放されるだろうとの思いを強くする。

記事の冒頭の前文は、記事全体の顔だ。まずは、記事の冒頭を以下に記す。

──発がん性や胎児の脳への影響などが指摘され、国際的に問題になっている農薬が、日本では駐車場や道ばたの除草、コバエやゴキブリの駆除、ペットのノミ取りなどに無造作に使われ、使用量が増えている。代表的なのが、グリホサートの除草剤とネオニコチノイド系の殺虫剤だ。海外では規制が強化されつつあるのに、国内の対応が甘いことに、研究者は懸念を抱いている。──

この前文を読むと、世界中の科学者がグリホサート(製品名ラウンドアップ)という除草剤が、がんを起こすことを認めているかのような書きっぷりだが、事実は全く違う。さらに、同記事は「国内の対応が甘いことに、研究者は懸念を抱いている」と書いているが、私がこれまでに農薬問題を約30年間取材した経験から言って、この種のリスクの問題で「懸念を抱いている」とみられる研究者は100人の科学者のうち、多くて数人だろう。そのたった数人の研究者の異端的な意見を、さも大多数の研究者が抱く懸念かのごとく、記事の前文で報じることに作為的な悪意を感じる。この前文を読むだけで、この記者は科学的で正確な事実を読者に伝えようと努力していないことが読み取れる。

 

■米国で恐るべき訴訟

同記事にも出てくるが、いまグリホサートをめぐって、米国では恐るべき訴訟が起きている。科学を重視する科学者にとっては、背筋が寒くなるような訴訟ビジネスの実態だ。──どんな訴訟なのか?

グリホサートを使っていた市民たちが「白血球のがんになったのはグリホサートが原因だ」とカリフォルニア州地方裁判所に訴訟を起こしたのだ。

これまでの3件(2018年8月~今年5月)ではいずれも原告側の市民が勝訴している。なんとこの3件で陪審員は補償的損害と懲罰的損害を合わせて、約300億円、約80億円、約2200億円(1ドル100円で換算)もの賠償金の支払いを命じた。のちに判事の裁定でそれぞれ約80億円、約25億、約90億円に減額されたものの、途方もない賠償金に違いはない。被告の農薬メーカーは旧モンサント社(現在はドイツのバイエル)。控訴中でまだ決着はついていないが、恐るべきは、同様の訴訟が米国内で18000件以上も起きていることだ。

 

■グループ分類の意味

訴訟が起きた背景には、2015年3月に国際がん研究機関(IARC)がグリホサートを発がん性分類で「グループ2A」にしたことが大きく影響している。おそらく陪審員たちは弁護士の巧みな論法に説得され、グループ2Aという印籠にひれ伏してしまったのだろうと推察する。

しかし、がんのグループ分類は、実際の危険性やリスクの高低とは、全く関係がない。

ちなみに、発がん性分類は「グループ1」(発がん性あり)▽「グループ2A」(おそらく=probably=発がん性がある)▽「グループ2B」(発がん性の可能性あり)▽「グループ3」(発がん性と分類できない)▽「グループ4」(発がん性なし)の5段階ある。

いうまでもなく、この分類は発がん性の証拠の強さの順番に並んでおり、グループ1はがんの証拠が十分にそろっているという意味だ。そのグループ1には「ダイオキシン」「たばこ」「ハム・ソーセージなどの加工肉」「アルコール」「カドミウム」「ヒ素」などがある。

アルコールを毎日、たくさん20~30年も飲み続ければ、がんになるリスクが高くなるという証拠が十分にそろっているという意味だ。逆に言えば、アルコールをときどき適量に飲んでいれば、がんのリスクはゼロに低い。

 

■グループ2Aには「熱い飲み物」も

グリホサートに反対する市民グループは、このグループ2Aを盾に「グリホサートは発がん性」と主張しているが、実は、その同じグループ2Aには「肉類(鶏肉を除くレッドミート)」、「アクリルアミド」(ポテトフライやト―ストの茶色く焦げた部分などに含まれる)、「65度以上の熱い飲み物」などがある。

言い換えると豚肉や牛肉も、外食産業で食べるポテトフライも、毎日自宅や喫茶店で飲む熱い飲み物も、みなグループ2Aである。ちなみにポテトフライに含まれるアクリルアミドは毒劇物取締法では「劇物」に指定されているのに対し、グリホサートは同じ法律で「普通物」扱いだ。これを知るだけで「グループ2Aだから危ないとは言えない」ことが中学生でも分かるだろう。

 仮にグリホサートの使用者ががんになって、10億円を超す賠償金を獲得できるならば、毎日ポテトフライを食べていて、がんになった人も、ポテトフライを売る会社を相手取って訴訟を起こせば、10億円を勝ちとれるという理屈になる。熱いコーヒーを出す喫茶店からも高額の賠償金をもぎ取れるだろう。

すでに察しがつくように、グループ1はグループ2Aよりも証拠がそろっているのだから、アルコールを売る会社やハムソーセージを売る会社にも訴訟を起こして、莫大な損害賠償を勝ち取ることも可能になるだろう。

こういうたとえ話を聞けば、この訴訟のおかしさが分かるはずだが、米国の陪審員は科学者のような思考には慣れていないのだろう。勝訴で勢いづいた弁護側はいまテレビに広告(CM)を流し、「グリホサートを使っていて、がんになった人は訴訟に加わりましょう」と原告を募集している。見たこともない大金がもらえるなら、原告に加わる人も出てくるだろう。がん患者を食いものにする訴訟ビジネスの寂しい一面でもある。

この訴訟の背景にはグリホサートに発がん性の警告表示が必要だとするカリフォルニア州特有の「安全飲料水および有害物質施行法(プロポジション65)」がある。そういう意味ではこの種のリスクに敏感な民主党の強いカリフォルニア州特有の動きともいえるが、この恐るべき訴訟がいつ日本に来ないとも限らない。

 

■正当な意見は無視

さて、上記の大手新聞の記事は、こういうグループ分類の科学的な解説には全くふれず、グリホサートで発達障害や腸内細菌の異常、生殖毒性まで起きているとする海外の団体の偏った主張だけを載せている。

市民グループの意見は長々と載せているのに対し、世界中の科学者の多数意見ともいえる欧州食品安全機関(EFSA)や米国環境保護局(EPA)の見解については、「発がん性を否定」しているというたった一言で済ませている。要するに記事の大半は、農薬に反対する市民グループとその市民グループに味方するごくごく一部の研究者の意見や主張だけが占めるという構図だ。こういう記事を書くときは、「私が共感する市民グループの意見だけを紹介する」と前置きして書くべきだろう。記事はいかにも客観性を装う内容にみえるが、単なるプロパガンダに過ぎない。よくあるパターンだと言ってしまえば、それまでだが、週刊誌ならまだしも、日本で最も信頼されているとされる新聞でこの状況である。

この米国の訴訟の判決に対して、米国の環境保護局(EPA)は8月8日、「米国政府はグリホサートの発がん性警告表示を全く認めていない。国際がん研究機関よりもはるかに包括的に研究文献を精査した結果、発がん性の根拠はない」とするプレスリリースを出した。こういう重要な動きを記事は全く伝えていない。

さらに言えば、IARCは2015年にグリホサートのほか、マラソン(殺虫剤)、ダイアジノン(殺虫剤)もグループ2Aにした。しかし、同じグループながら、マラソンやダイアジノンは全く話題にも上らない。訴訟にもなっていない。なぜかグリホサートだけが攻撃される。市民グループの恰好のターゲットとなっている旧モンサント社がからむからだろう。

市民グループの主張だけを取り上げて、よい記事を書いたと自己満足している記者がいまも存在するということをぜひ知っておきたい。ここで強調したいのは、反対運動自体を問題視しているのではなく、科学的な根拠に基づく正確な情報を伝えない報道の目に余る偏りが問題だということだ。こうした海外の動きを受けて、日本の市民グループや国会議員もグリホサートへの反対運動を強めている。次回で続編をレポートしたい。

※文中に出てくるグリホサートは除草剤の有効成分です。現在、世界で数多くの会社がグリホサートを含む除草剤を製造・販売していますが、米国での訴訟の対象になっているのは旧モンサント(現在はドイツのバイエル)の商品のラウンドアップです。ただ、記事では分かりやすくするため、成分名のグリホサートで統一しました。

 

〈筆者ご紹介〉

小島正美氏

略歴 1951年愛知県生まれ。愛知県立大学卒業後に毎日新聞社入社。松本支局などを経て、1986年から東京本社・生活報道で食や健康問題を担当。2018年6月末で退社。現在は「食生活ジャーナリストの会」代表を務める。今年1月末、最新の著書「メディア・バイアスの正体を明かす」(エネルギーフォーラム)を上梓した。

 

https://www.jaif.or.jp/crm_1909

 

コラムSalonから 農薬をめぐるバイアス記事の好例 (グリホサート)

 

◎除草剤グリホサートをめぐる恐るべき事態が勃発

食生活ジャーナリストの会代表 https://chiebukuro.yahoo.co.jp/search/?rkf=1&ei=UTF-8&p=%E3%82%B0%E3%83%AA%E3%83%9B%E3%82%B5%E3%83%BC%E3%83%88&fr=sc_dr&__ysp=44Kw44Oq44Ob44K144O844OI 小島 正美 https://agrifact.dga.jp/faq_detail.html?id=120&category=2&page=1 https://cbijapan.com http://edition.cnn.com/search/?text=agriculture href="https://www.amazon.co.jp/トムソン-トムソン-液体除草剤-グリホサート-500ml/dp/B00N2NUAQG">グリホサート https://shopping.yahoo.co.jp/search?rkf=2&p=%E3%82%B0%E3%83%AA%E3%83%9B%E3%82%B5%E3%83%BC%E3%83%88&uIv=on&first=1&ei=utf-8&seller=1&sc_e=sydr_sstlspro_2507_statgue&__ysp=44Kw44Oq44Ob44K144O844OI

  ──科学者へ、決して他人事ではありません──

 

悪意に満ちたバイアス(偏った)記事がいまなお健在だという好例の記事を見つけた。知識層が最も好むとされる大手新聞(8月24日付)の朝刊記事だ。グリホサートという除草剤が発がん性や胎児への影響をもたらすと指摘する記事だが、先進国の公的機関は明確に否定している。こういう記事が続く限り、活字メディアはいよいよ専門家から見放されるだろうとの思いを強くする。

記事の冒頭の前文は、記事全体の顔だ。まずは、記事の冒頭を以下に記す。

──発がん性や胎児の脳への影響などが指摘され、国際的に問題になっている農薬が、日本では駐車場や道ばたの除草、コバエやゴキブリの駆除、ペットのノミ取りなどに無造作に使われ、使用量が増えている。代表的なのが、グリホサートの除草剤とネオニコチノイド系の殺虫剤だ。海外では規制が強化されつつあるのに、国内の対応が甘いことに、研究者は懸念を抱いている。──

この前文を読むと、世界中の科学者がグリホサート(製品名ラウンドアップ)という除草剤が、がんを起こすことを認めているかのような書きっぷりだが、事実は全く違う。さらに、同記事は「国内の対応が甘いことに、研究者は懸念を抱いている」と書いているが、私がこれまでに農薬問題を約30年間取材した経験から言って、この種のリスクの問題で「懸念を抱いている」とみられる研究者は100人の科学者のうち、多くて数人だろう。そのたった数人の研究者の異端的な意見を、さも大多数の研究者が抱く懸念かのごとく、記事の前文で報じることに作為的な悪意を感じる。この前文を読むだけで、この記者は科学的で正確な事実を読者に伝えようと努力していないことが読み取れる。

 

■米国で恐るべき訴訟

同記事にも出てくるが、いまグリホサートをめぐって、米国では恐るべき訴訟が起きている。科学を重視する科学者にとっては、背筋が寒くなるような訴訟ビジネスの実態だ。──どんな訴訟なのか?

グリホサートを使っていた市民たちが「白血球のがんになったのはグリホサートが原因だ」とカリフォルニア州地方裁判所に訴訟を起こしたのだ。

これまでの3件(2018年8月~今年5月)ではいずれも原告側の市民が勝訴している。なんとこの3件で陪審員は補償的損害と懲罰的損害を合わせて、約300億円、約80億円、約2200億円(1ドル100円で換算)もの賠償金の支払いを命じた。のちに判事の裁定でそれぞれ約80億円、約25億、約90億円に減額されたものの、途方もない賠償金に違いはない。被告の農薬メーカーは旧モンサント社(現在はドイツのバイエル)。控訴中でまだ決着はついていないが、恐るべきは、同様の訴訟が米国内で18000件以上も起きていることだ。

 

■グループ分類の意味

訴訟が起きた背景には、2015年3月に国際がん研究機関(IARC)がグリホサートを発がん性分類で「グループ2A」にしたことが大きく影響している。おそらく陪審員たちは弁護士の巧みな論法に説得され、グループ2Aという印籠にひれ伏してしまったのだろうと推察する。

しかし、がんのグループ分類は、実際の危険性やリスクの高低とは、全く関係がない。

ちなみに、発がん性分類は「グループ1」(発がん性あり)▽「グループ2A」(おそらく=probably=発がん性がある)▽「グループ2B」(発がん性の可能性あり)▽「グループ3」(発がん性と分類できない)▽「グループ4」(発がん性なし)の5段階ある。

いうまでもなく、この分類は発がん性の証拠の強さの順番に並んでおり、グループ1はがんの証拠が十分にそろっているという意味だ。そのグループ1には「ダイオキシン」「たばこ」「ハム・ソーセージなどの加工肉」「アルコール」「カドミウム」「ヒ素」などがある。

アルコールを毎日、たくさん20~30年も飲み続ければ、がんになるリスクが高くなるという証拠が十分にそろっているという意味だ。逆に言えば、アルコールをときどき適量に飲んでいれば、がんのリスクはゼロに低い。

 

■グループ2Aには「熱い飲み物」も

グリホサートに反対する市民グループは、このグループ2Aを盾に「グリホサートは発がん性」と主張しているが、実は、その同じグループ2Aには「肉類(鶏肉を除くレッドミート)」、「アクリルアミド」(ポテトフライやト―ストの茶色く焦げた部分などに含まれる)、「65度以上の熱い飲み物」などがある。

言い換えると豚肉や牛肉も、外食産業で食べるポテトフライも、毎日自宅や喫茶店で飲む熱い飲み物も、みなグループ2Aである。ちなみにポテトフライに含まれるアクリルアミドは毒劇物取締法では「劇物」に指定されているのに対し、グリホサートは同じ法律で「普通物」扱いだ。これを知るだけで「グループ2Aだから危ないとは言えない」ことが中学生でも分かるだろう。

 仮にグリホサートの使用者ががんになって、10億円を超す賠償金を獲得できるならば、毎日ポテトフライを食べていて、がんになった人も、ポテトフライを売る会社を相手取って訴訟を起こせば、10億円を勝ちとれるという理屈になる。熱いコーヒーを出す喫茶店からも高額の賠償金をもぎ取れるだろう。

すでに察しがつくように、グループ1はグループ2Aよりも証拠がそろっているのだから、アルコールを売る会社やハムソーセージを売る会社にも訴訟を起こして、莫大な損害賠償を勝ち取ることも可能になるだろう。

こういうたとえ話を聞けば、この訴訟のおかしさが分かるはずだが、米国の陪審員は科学者のような思考には慣れていないのだろう。勝訴で勢いづいた弁護側はいまテレビに広告(CM)を流し、「グリホサートを使っていて、がんになった人は訴訟に加わりましょう」と原告を募集している。見たこともない大金がもらえるなら、原告に加わる人も出てくるだろう。がん患者を食いものにする訴訟ビジネスの寂しい一面でもある。

この訴訟の背景にはグリホサートに発がん性の警告表示が必要だとするカリフォルニア州特有の「安全飲料水および有害物質施行法(プロポジション65)」がある。そういう意味ではこの種のリスクに敏感な民主党の強いカリフォルニア州特有の動きともいえるが、この恐るべき訴訟がいつ日本に来ないとも限らない。

 

■正当な意見は無視

さて、上記の大手新聞の記事は、こういうグループ分類の科学的な解説には全くふれず、グリホサートで発達障害や腸内細菌の異常、生殖毒性まで起きているとする海外の団体の偏った主張だけを載せている。

市民グループの意見は長々と載せているのに対し、世界中の科学者の多数意見ともいえる欧州食品安全機関(EFSA)や米国環境保護局(EPA)の見解については、「発がん性を否定」しているというたった一言で済ませている。要するに記事の大半は、農薬に反対する市民グループとその市民グループに味方するごくごく一部の研究者の意見や主張だけが占めるという構図だ。こういう記事を書くときは、「私が共感する市民グループの意見だけを紹介する」と前置きして書くべきだろう。記事はいかにも客観性を装う内容にみえるが、単なるプロパガンダに過ぎない。よくあるパターンだと言ってしまえば、それまでだが、週刊誌ならまだしも、日本で最も信頼されているとされる新聞でこの状況である。

この米国の訴訟の判決に対して、米国の環境保護局(EPA)は8月8日、「米国政府はグリホサートの発がん性警告表示を全く認めていない。国際がん研究機関よりもはるかに包括的に研究文献を精査した結果、発がん性の根拠はない」とするプレスリリースを出した。こういう重要な動きを記事は全く伝えていない。

さらに言えば、IARCは2015年にグリホサートのほか、マラソン(殺虫剤)、ダイアジノン(殺虫剤)もグループ2Aにした。しかし、同じグループながら、マラソンやダイアジノンは全く話題にも上らない。訴訟にもなっていない。なぜかグリホサートだけが攻撃される。市民グループの恰好のターゲットとなっている旧モンサント社がからむからだろう。

市民グループの主張だけを取り上げて、よい記事を書いたと自己満足している記者がいまも存在するということをぜひ知っておきたい。ここで強調したいのは、反対運動自体を問題視しているのではなく、科学的な根拠に基づく正確な情報を伝えない報道の目に余る偏りが問題だということだ。こうした海外の動きを受けて、日本の市民グループや国会議員もグリホサートへの反対運動を強めている。次回で続編をレポートしたい。

※文中に出てくるグリホサートは除草剤の有効成分です。現在、世界で数多くの会社がグリホサートを含む除草剤を製造・販売していますが、米国での訴訟の対象になっているのは旧モンサント(現在はドイツのバイエル)の商品のラウンドアップです。ただ、記事では分かりやすくするため、成分名のグリホサートで統一しました。

 

〈筆者ご紹介〉

小島正美氏

略歴 1951年愛知県生まれ。愛知県立大学卒業後に毎日新聞社入社。松本支局などを経て、1986年から東京本社・生活報道で食や健康問題を担当。2018年6月末で退社。現在は「食生活ジャーナリストの会」代表を務める。今年1月末、最新の著書「メディア・バイアスの正体を明かす」(エネルギーフォーラム)を上梓した。

 

https://www.jaif.or.jp/crm_1909

 

コラムSalonから 農薬をめぐるバイアス記事の好例 (グリホサート)

 

◎除草剤グリホサートをめぐる恐るべき事態が勃発

食生活ジャーナリストの会代表 グリホサート https://agrifact.dga.jp 小島 正美 グリホサート 分析 ameblo.jp/12129090/entry-12632756202.html https://www.washingtonpost.com/newssearch/?query=agriculture

  ──科学者へ、決して他人事ではありません──

 

悪意に満ちたバイアス(偏った)記事がいまなお健在だという好例の記事を見つけた。知識層が最も好むとされる大手新聞(8月24日付)の朝刊記事だ。グリホサートという除草剤が発がん性や胎児への影響をもたらすと指摘する記事だが、先進国の公的機関は明確に否定している。こういう記事が続く限り、活字メディアはいよいよ専門家から見放されるだろうとの思いを強くする。

記事の冒頭の前文は、記事全体の顔だ。まずは、記事の冒頭を以下に記す。

──発がん性や胎児の脳への影響などが指摘され、国際的に問題になっている農薬が、日本では駐車場や道ばたの除草、コバエやゴキブリの駆除、ペットのノミ取りなどに無造作に使われ、使用量が増えている。代表的なのが、グリホサートの除草剤とネオニコチノイド系の殺虫剤だ。海外では規制が強化されつつあるのに、国内の対応が甘いことに、研究者は懸念を抱いている。──

この前文を読むと、世界中の科学者がグリホサート(製品名ラウンドアップ)という除草剤が、がんを起こすことを認めているかのような書きっぷりだが、事実は全く違う。さらに、同記事は「国内の対応が甘いことに、研究者は懸念を抱いている」と書いているが、私がこれまでに農薬問題を約30年間取材した経験から言って、この種のリスクの問題で「懸念を抱いている」とみられる研究者は100人の科学者のうち、多くて数人だろう。そのたった数人の研究者の異端的な意見を、さも大多数の研究者が抱く懸念かのごとく、記事の前文で報じることに作為的な悪意を感じる。この前文を読むだけで、この記者は科学的で正確な事実を読者に伝えようと努力していないことが読み取れる。

 

■米国で恐るべき訴訟

同記事にも出てくるが、いまグリホサートをめぐって、米国では恐るべき訴訟が起きている。科学を重視する科学者にとっては、背筋が寒くなるような訴訟ビジネスの実態だ。──どんな訴訟なのか?

グリホサートを使っていた市民たちが「白血球のがんになったのはグリホサートが原因だ」とカリフォルニア州地方裁判所に訴訟を起こしたのだ。

これまでの3件(2018年8月~今年5月)ではいずれも原告側の市民が勝訴している。なんとこの3件で陪審員は補償的損害と懲罰的損害を合わせて、約300億円、約80億円、約2200億円(1ドル100円で換算)もの賠償金の支払いを命じた。のちに判事の裁定でそれぞれ約80億円、約25億、約90億円に減額されたものの、途方もない賠償金に違いはない。被告の農薬メーカーは旧モンサント社(現在はドイツのバイエル)。控訴中でまだ決着はついていないが、恐るべきは、同様の訴訟が米国内で18000件以上も起きていることだ。

 

■グループ分類の意味

訴訟が起きた背景には、2015年3月に国際がん研究機関(IARC)がグリホサートを発がん性分類で「グループ2A」にしたことが大きく影響している。おそらく陪審員たちは弁護士の巧みな論法に説得され、グループ2Aという印籠にひれ伏してしまったのだろうと推察する。

しかし、がんのグループ分類は、実際の危険性やリスクの高低とは、全く関係がない。

ちなみに、発がん性分類は「グループ1」(発がん性あり)▽「グループ2A」(おそらく=probably=発がん性がある)▽「グループ2B」(発がん性の可能性あり)▽「グループ3」(発がん性と分類できない)▽「グループ4」(発がん性なし)の5段階ある。

いうまでもなく、この分類は発がん性の証拠の強さの順番に並んでおり、グループ1はがんの証拠が十分にそろっているという意味だ。そのグループ1には「ダイオキシン」「たばこ」「ハム・ソーセージなどの加工肉」「アルコール」「カドミウム」「ヒ素」などがある。

アルコールを毎日、たくさん20~30年も飲み続ければ、がんになるリスクが高くなるという証拠が十分にそろっているという意味だ。逆に言えば、アルコールをときどき適量に飲んでいれば、がんのリスクはゼロに低い。

 

■グループ2Aには「熱い飲み物」も

グリホサートに反対する市民グループは、このグループ2Aを盾に「グリホサートは発がん性」と主張しているが、実は、その同じグループ2Aには「肉類(鶏肉を除くレッドミート)」、「アクリルアミド」(ポテトフライやト―ストの茶色く焦げた部分などに含まれる)、「65度以上の熱い飲み物」などがある。

言い換えると豚肉や牛肉も、外食産業で食べるポテトフライも、毎日自宅や喫茶店で飲む熱い飲み物も、みなグループ2Aである。ちなみにポテトフライに含まれるアクリルアミドは毒劇物取締法では「劇物」に指定されているのに対し、グリホサートは同じ法律で「普通物」扱いだ。これを知るだけで「グループ2Aだから危ないとは言えない」ことが中学生でも分かるだろう。

 仮にグリホサートの使用者ががんになって、10億円を超す賠償金を獲得できるならば、毎日ポテトフライを食べていて、がんになった人も、ポテトフライを売る会社を相手取って訴訟を起こせば、10億円を勝ちとれるという理屈になる。熱いコーヒーを出す喫茶店からも高額の賠償金をもぎ取れるだろう。

すでに察しがつくように、グループ1はグループ2Aよりも証拠がそろっているのだから、アルコールを売る会社やハムソーセージを売る会社にも訴訟を起こして、莫大な損害賠償を勝ち取ることも可能になるだろう。

こういうたとえ話を聞けば、この訴訟のおかしさが分かるはずだが、米国の陪審員は科学者のような思考には慣れていないのだろう。勝訴で勢いづいた弁護側はいまテレビに広告(CM)を流し、「グリホサートを使っていて、がんになった人は訴訟に加わりましょう」と原告を募集している。見たこともない大金がもらえるなら、原告に加わる人も出てくるだろう。がん患者を食いものにする訴訟ビジネスの寂しい一面でもある。

この訴訟の背景にはグリホサートに発がん性の警告表示が必要だとするカリフォルニア州特有の「安全飲料水および有害物質施行法(プロポジション65)」がある。そういう意味ではこの種のリスクに敏感な民主党の強いカリフォルニア州特有の動きともいえるが、この恐るべき訴訟がいつ日本に来ないとも限らない。

 

■正当な意見は無視

さて、上記の大手新聞の記事は、こういうグループ分類の科学的な解説には全くふれず、グリホサートで発達障害や腸内細菌の異常、生殖毒性まで起きているとする海外の団体の偏った主張だけを載せている。

市民グループの意見は長々と載せているのに対し、世界中の科学者の多数意見ともいえる欧州食品安全機関(EFSA)や米国環境保護局(EPA)の見解については、「発がん性を否定」しているというたった一言で済ませている。要するに記事の大半は、農薬に反対する市民グループとその市民グループに味方するごくごく一部の研究者の意見や主張だけが占めるという構図だ。こういう記事を書くときは、「私が共感する市民グループの意見だけを紹介する」と前置きして書くべきだろう。記事はいかにも客観性を装う内容にみえるが、単なるプロパガンダに過ぎない。よくあるパターンだと言ってしまえば、それまでだが、週刊誌ならまだしも、日本で最も信頼されているとされる新聞でこの状況である。

この米国の訴訟の判決に対して、米国の環境保護局(EPA)は8月8日、「米国政府はグリホサートの発がん性警告表示を全く認めていない。国際がん研究機関よりもはるかに包括的に研究文献を精査した結果、発がん性の根拠はない」とするプレスリリースを出した。こういう重要な動きを記事は全く伝えていない。

さらに言えば、IARCは2015年にグリホサートのほか、マラソン(殺虫剤)、ダイアジノン(殺虫剤)もグループ2Aにした。しかし、同じグループながら、マラソンやダイアジノンは全く話題にも上らない。訴訟にもなっていない。なぜかグリホサートだけが攻撃される。市民グループの恰好のターゲットとなっている旧モンサント社がからむからだろう。

市民グループの主張だけを取り上げて、よい記事を書いたと自己満足している記者がいまも存在するということをぜひ知っておきたい。ここで強調したいのは、反対運動自体を問題視しているのではなく、科学的な根拠に基づく正確な情報を伝えない報道の目に余る偏りが問題だということだ。こうした海外の動きを受けて、日本の市民グループや国会議員もグリホサートへの反対運動を強めている。次回で続編をレポートしたい。

※文中に出てくるグリホサートは除草剤の有効成分です。現在、世界で数多くの会社がグリホサートを含む除草剤を製造・販売していますが、米国での訴訟の対象になっているのは旧モンサント(現在はドイツのバイエル)の商品のラウンドアップです。ただ、記事では分かりやすくするため、成分名のグリホサートで統一しました。

 

〈筆者ご紹介〉

小島正美氏

略歴 1951年愛知県生まれ。愛知県立大学卒業後に毎日新聞社入社。松本支局などを経て、1986年から東京本社・生活報道で食や健康問題を担当。2018年6月末で退社。現在は「食生活ジャーナリストの会」代表を務める。今年1月末、最新の著書「メディア・バイアスの正体を明かす」(エネルギーフォーラム)を上梓した。

 

https://www.jaif.or.jp/crm_1909

 

コラムSalonから 農薬をめぐるバイアス記事の好例 (グリホサート)

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◎除草剤グリホサートをめぐる恐るべき事態が勃発

食生活ジャーナリストの会代表 http://edition.cnn.com/search/?text=agriculture 小島 正美 氏

  ──科学者へ、決して他人事ではありません──

 

悪意に満ちたバイアス(偏った)記事がいまなお健在だという好例の記事を見つけた。知識層が最も好むとされる大手新聞(8月24日付)の朝刊記事だ。グリホサートという除草剤が発がん性や胎児への影響をもたらすと指摘する記事だが、先進国の公的機関は明確に否定している。こういう記事が続く限り、活字メディアはいよいよ専門家から見放されるだろうとの思いを強くする。

記事の冒頭の前文は、記事全体の顔だ。まずは、記事の冒頭を以下に記す。

──発がん性や胎児の脳への影響などが指摘され、国際的に問題になっている農薬が、日本では駐車場や道ばたの除草、コバエやゴキブリの駆除、ペットのノミ取りなどに無造作に使われ、使用量が増えている。代表的なのが、グリホサートの除草剤とネオニコチノイド系の殺虫剤だ。海外では規制が強化されつつあるのに、国内の対応が甘いことに、研究者は懸念を抱いている。──

この前文を読むと、世界中の科学者がグリホサート(製品名ラウンドアップ)という除草剤が、がんを起こすことを認めているかのような書きっぷりだが、事実は全く違う。さらに、同記事は「国内の対応が甘いことに、研究者は懸念を抱いている」と書いているが、私がこれまでに農薬問題を約30年間取材した経験から言って、この種のリスクの問題で「懸念を抱いている」とみられる研究者は100人の科学者のうち、多くて数人だろう。そのたった数人の研究者の異端的な意見を、さも大多数の研究者が抱く懸念かのごとく、記事の前文で報じることに作為的な悪意を感じる。この前文を読むだけで、この記者は科学的で正確な事実を読者に伝えようと努力していないことが読み取れる。

 

■米国で恐るべき訴訟

同記事にも出てくるが、いまグリホサートをめぐって、米国では恐るべき訴訟が起きている。科学を重視する科学者にとっては、背筋が寒くなるような訴訟ビジネスの実態だ。──どんな訴訟なのか?

グリホサートを使っていた市民たちが「白血球のがんになったのはグリホサートが原因だ」とカリフォルニア州地方裁判所に訴訟を起こしたのだ。

これまでの3件(2018年8月~今年5月)ではいずれも原告側の市民が勝訴している。なんとこの3件で陪審員は補償的損害と懲罰的損害を合わせて、約300億円、約80億円、約2200億円(1ドル100円で換算)もの賠償金の支払いを命じた。のちに判事の裁定でそれぞれ約80億円、約25億、約90億円に減額されたものの、途方もない賠償金に違いはない。被告の農薬メーカーは旧モンサント社(現在はドイツのバイエル)。控訴中でまだ決着はついていないが、恐るべきは、同様の訴訟が米国内で18000件以上も起きていることだ。

 

■グループ分類の意味

訴訟が起きた背景には、2015年3月に国際がん研究機関(IARC)がグリホサートを発がん性分類で「グループ2A」にしたことが大きく影響している。おそらく陪審員たちは弁護士の巧みな論法に説得され、グループ2Aという印籠にひれ伏してしまったのだろうと推察する。

しかし、がんのグループ分類は、実際の危険性やリスクの高低とは、全く関係がない。

ちなみに、発がん性分類は「グループ1」(発がん性あり)▽「グループ2A」(おそらく=probably=発がん性がある)▽「グループ2B」(発がん性の可能性あり)▽「グループ3」(発がん性と分類できない)▽「グループ4」(発がん性なし)の5段階ある。

いうまでもなく、この分類は発がん性の証拠の強さの順番に並んでおり、グループ1はがんの証拠が十分にそろっているという意味だ。そのグループ1には「ダイオキシン」「たばこ」「ハム・ソーセージなどの加工肉」「アルコール」「カドミウム」「ヒ素」などがある。

アルコールを毎日、たくさん20~30年も飲み続ければ、がんになるリスクが高くなるという証拠が十分にそろっているという意味だ。逆に言えば、アルコールをときどき適量に飲んでいれば、がんのリスクはゼロに低い。

 

■グループ2Aには「熱い飲み物」も

グリホサートに反対する市民グループは、このグループ2Aを盾に「グリホサートは発がん性」と主張しているが、実は、その同じグループ2Aには「肉類(鶏肉を除くレッドミート)」、「アクリルアミド」(ポテトフライやト―ストの茶色く焦げた部分などに含まれる)、「65度以上の熱い飲み物」などがある。

言い換えると豚肉や牛肉も、外食産業で食べるポテトフライも、毎日自宅や喫茶店で飲む熱い飲み物も、みなグループ2Aである。ちなみにポテトフライに含まれるアクリルアミドは毒劇物取締法では「劇物」に指定されているのに対し、グリホサートは同じ法律で「普通物」扱いだ。これを知るだけで「グループ2Aだから危ないとは言えない」ことが中学生でも分かるだろう。

 仮にグリホサートの使用者ががんになって、10億円を超す賠償金を獲得できるならば、毎日ポテトフライを食べていて、がんになった人も、ポテトフライを売る会社を相手取って訴訟を起こせば、10億円を勝ちとれるという理屈になる。熱いコーヒーを出す喫茶店からも高額の賠償金をもぎ取れるだろう。

すでに察しがつくように、グループ1はグループ2Aよりも証拠がそろっているのだから、アルコールを売る会社やハムソーセージを売る会社にも訴訟を起こして、莫大な損害賠償を勝ち取ることも可能になるだろう。

こういうたとえ話を聞けば、この訴訟のおかしさが分かるはずだが、米国の陪審員は科学者のような思考には慣れていないのだろう。勝訴で勢いづいた弁護側はいまテレビに広告(CM)を流し、「グリホサートを使っていて、がんになった人は訴訟に加わりましょう」と原告を募集している。見たこともない大金がもらえるなら、原告に加わる人も出てくるだろう。がん患者を食いものにする訴訟ビジネスの寂しい一面でもある。

この訴訟の背景にはグリホサートに発がん性の警告表示が必要だとするカリフォルニア州特有の「安全飲料水および有害物質施行法(プロポジション65)」がある。そういう意味ではこの種のリスクに敏感な民主党の強いカリフォルニア州特有の動きともいえるが、この恐るべき訴訟がいつ日本に来ないとも限らない。

 

■正当な意見は無視

さて、上記の大手新聞の記事は、こういうグループ分類の科学的な解説には全くふれず、グリホサートで発達障害や腸内細菌の異常、生殖毒性まで起きているとする海外の団体の偏った主張だけを載せている。

市民グループの意見は長々と載せているのに対し、世界中の科学者の多数意見ともいえる欧州食品安全機関(EFSA)や米国環境保護局(EPA)の見解については、「発がん性を否定」しているというたった一言で済ませている。要するに記事の大半は、農薬に反対する市民グループとその市民グループに味方するごくごく一部の研究者の意見や主張だけが占めるという構図だ。こういう記事を書くときは、「私が共感する市民グループの意見だけを紹介する」と前置きして書くべきだろう。記事はいかにも客観性を装う内容にみえるが、単なるプロパガンダに過ぎない。よくあるパターンだと言ってしまえば、それまでだが、週刊誌ならまだしも、日本で最も信頼されているとされる新聞でこの状況である。

この米国の訴訟の判決に対して、米国の環境保護局(EPA)は8月8日、「米国政府はグリホサートの発がん性警告表示を全く認めていない。国際がん研究機関よりもはるかに包括的に研究文献を精査した結果、発がん性の根拠はない」とするプレスリリースを出した。こういう重要な動きを記事は全く伝えていない。

さらに言えば、IARCは2015年にグリホサートのほか、マラソン(殺虫剤)、ダイアジノン(殺虫剤)もグループ2Aにした。しかし、同じグループながら、マラソンやダイアジノンは全く話題にも上らない。訴訟にもなっていない。なぜかグリホサートだけが攻撃される。市民グループの恰好のターゲットとなっている旧モンサント社がからむからだろう。

市民グループの主張だけを取り上げて、よい記事を書いたと自己満足している記者がいまも存在するということをぜひ知っておきたい。ここで強調したいのは、反対運動自体を問題視しているのではなく、科学的な根拠に基づく正確な情報を伝えない報道の目に余る偏りが問題だということだ。こうした海外の動きを受けて、日本の市民グループや国会議員もグリホサートへの反対運動を強めている。次回で続編をレポートしたい。

※文中に出てくるグリホサートは除草剤の有効成分です。現在、世界で数多くの会社がグリホサートを含む除草剤を製造・販売していますが、米国での訴訟の対象になっているのは旧モンサント(現在はドイツのバイエル)の商品のラウンドアップです。ただ、記事では分かりやすくするため、成分名のグリホサートで統一しました。

 

〈筆者ご紹介〉

小島正美氏

略歴 1951年愛知県生まれ。愛知県立大学卒業後に毎日新聞社入社。松本支局などを経て、1986年から東京本社・生活報道で食や健康問題を担当。2018年6月末で退社。現在は「食生活ジャーナリストの会」代表を務める。今年1月末、最新の著書「メディア・バイアスの正体を明かす」(エネルギーフォーラム)を上梓した。

 

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http://pssj2.jp/2006/gakkaisi/tec_info/glyphosa.pdf href="https://agrifact.dga.jp/faq_detail.html?id=108">https://agrifact.dga.jp/faq_detail.html?id=108 twitter.com/hashtag/%E3%82%B0%E3%83%AA%E3%83%9B%E3%82%B5%E3%83%BC%E3%83%88%E9%99%A4%E8%8D%89%E5%89%A4 グリホサート

【解説】「グリホサートは多くの病気の原因」というセネフ博士の主張は科学的に正しいのか?

 

獣医師・サイエンスコミュニケーター 高畑菜穂子

日本獣医生命科学大学名誉教授 鈴木勝士

編集担当 紀平真理子

 

(全文はこちら

 

ラウンドアップの主成分であるグリホサートが危険だと主張する科学者

 

除草剤ラウンドアップ(主成分グリホサート)は、世界の規制機関によってその安全性が証明されていますが、一部の研究者がその毒性を主張しています。なかでも米国のセネフ博士はサムセル博士と連名で5つの論文を発表し、特に過激な主張を展開しています。それは、グリホサートががん、糖尿病、末梢神経障害、肥満、喘息、感染症、骨粗しょう症、不妊、先天異常など多くの病気の原因だという意見です。

 

メスネイジ博士とアントニオ博士による反論

これらの主張に対して、英国のメスネイジ博士とアントニオ博士は論文を発表し 、以下のように反論しています。

 

グリホサートを含む除草剤(ラウンドアップなどの製品)の安全性について、さまざまな議論がされている。科学に基づいた研究、調査を行なっている世界の規制当局と、グリホサートを含む除草剤を販売している企業は、「規制で許容された基準値以下の量であれば、グリホサートは安全」だと結論を出している。一方で一部の科学者は、「規制で許容された基準値以下の量であっても、リスクがあるのではないか」と懸念している。

 

特にセネフ博士とサムセル博士が一連の論文で、グリホサートに長期間暴露すると、がん、糖尿病、末梢神経障害、肥満、喘息、感染症、骨粗しょう症、不妊、先天異常など多くの慢性疾患を引き起こすと主張している。しかしその主張の根拠は、誰もが正しいと思える事実を起点として、妥当な結論を導き出す「演繹的な三段論法」を不適切に適用して導いたものであり、科学的事実に基づくものではない。つまりこれらの主張は、裏付けのない理論と推測あるいは単なる間違いに過ぎない。

 

セネフ博士とサムセル博士の議論は、グリホサートの毒性について間違った情報を伝え、市民、科学界、規制当局をミスリードするものである。

 

https://agrifact.dga.jp style="font-size: large;">解説『「グリホサートは多くの病気の原因」というセネフ博士の主張は科学的に正しいのか?』では、グリホサートを危険だと主張するセネフ博士とサムセル博士の主張の「どこが」「どのように」間違っているのかについて反論の論文を書いたメスネイジ博士とアントニオ博士の主張を、著者が解説や説明を加えてわかりやくすく紹介します。

 

 

グリホサートの安全性について科学界にある論争

 

グリホサートが植物を枯らす仕組み

グリホサートは雑草も農作物も区別なく枯らすのですが、最初にその仕組みを説明します。ラウンドアップの主成分であるグリホサート(N-ホスホノメチル-グリシン)は小さな分子で、これを農場などに散布すると植物の中に入ります。植物にはシキミ酸回路という仕組みがあり、その中で、5-エノールピルビルシキミ酸3-リン酸シンターゼという酵素が働いて、植物が生きるために必要なアミノ酸を合成します。グリホサートはこの酵素の働きを止めてしまいます。すると植物は、アミノ酸を作ることができず枯れてしまいます。この働きを活用して、グリホサートは雑草を枯らす除草剤として使われています。

 

世界中で1970年代から使用されているグリホサート

グリホサートは、1974年に一般発売されて以降、世界で最も多く使われる農薬になりました。さらに1996年に、遺伝子組換え技術によりグリホサートに耐性があるラウンドアップレディ作物(トウモロコシ、大豆、ナタネ、ワタ、砂糖大根、アルファルファ)が開発されました。農場にラウンドアップを散布すると、雑草は枯れてしまいますが、ラウンドアップレディ作物は生き残ります。こうして農作業の大きな部分を占める除草作業が簡単になり、グリホサートを含む除草剤の販売と使用は急激に増加しました。

 

グリホサート剤 large;">人の尿から検出されるグリホサート

人の尿からグリホサートが検出されたとの情報を目にして、不安に感じる方もいらっしゃるでしょう。人の尿からグリホサートが検出される理由と、この事実をどのように捉えれば良いかについて説明します。

 

農場などに散布されたグリホサートは、急速に分解します。作物や水、空気中など環境中にはグリホサートは存在しますが、その量は極めて微量です。しかし存在はしているため、人の尿を検査すると通常1~10μg/ℓ(1μg=0.001mg)のグリホサートが検出されます。この量は危険なのでしょうか?

 

グリホサートに関する多くの研究の中に、ラットにグリホサートを体重1kgあたり1日に60mg (60mg/kg体重/日)を2年間投与すると、肝機能に障害があらわれ、それ以下では障害は出ないという結果があります。人の尿に存在するグリホサートの量(通常1~10μg/ ℓ、つまり0.001〜0.01mg/ℓ)は、ラットに与えられた量(体重1kgあたり1日に60mg)よはるかに少ないことは明らかです。この研究から、2002年にEUはグリホサートの一日摂取許容量(ADI)を、その200分の1の体重1kgあたり1日に0.3mg(0.3mg/kg体重/日)に設定しました。その後2015年に、EUは新しい研究結果が得られたためADIを100分の1の体重1kgあたり1日に0.5mg( 0.5 mg/kg体重/日)に変更しました。ちなみにこの100分の1という安全係数は、日本の食品安全委員会をはじめ、国際機関であるJMPR(FAO/WHO合同残留農薬専門家会議)、EFSA(欧州食品安全機関)、USEPA(米国環境保護庁)も採用しています。

 

このことから分かるように、人が環境から摂取するグリホサートの量は、一日摂取許容量(ADI)よりはるかに少ないです。グリホサートを含めた化学物質に関して「検出された」ので危険だとすぐに思うのではなく、「どのくらいの量が検出され、ADIと比較してどの程度か」という視点で考えることが大切です。

 

https://ameblo.jp style="font-size: large;">グリホサートに関する見解の不一致

グリホサート large;">ただし微量であっても健康に影響があるのではないかと懸念されることがあります。これは議論を続けるべき課題です。グリホサートの安全性については、科学的な事実だけでなく、ビジネスやイデオロギーにも影響されます。グリホサートを含む除草剤を発売している企業は、3つの総説論文(現行の理解の状態を要約した論文)を発表し、「グリホサートは規制値以下の量では安全である」と結論しています。一方で研究者の中には、「規制値以下の量のグリホサートについては、リスク評価が不足している」と指摘する人もいます。そしてセネフ博士とサムセル博士は、5つの総説論文を発表し、「グリホサートの長期的暴露(環境中からの摂取)は、多くの慢性疾患の原因である」と主張しています。

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グリホサートの毒性に関しては、科学の世界に極端な見解の不一致があり、混乱が生じています。そのためこの不一致の原因を、明らかにする必要があります。

https://agrifact.dga.jp/faq_detail.html?id=108

 

【解説】「グリホサートは多くの病気の原因」というセネフ博士の主張は科学的に正しいのか?

 

獣医師・サイエンスコミュニケーター 高畑菜穂子

日本獣医生命科学大学名誉教授 鈴木勝士

編集担当 紀平真理子

 

(全文はこちら

 

ラウンドアップの主成分であるグリホサートが危険だと主張する科学者

 

除草剤ラウンドアップ(主成分グリホサート)は、世界の規制機関によってその安全性が証明されていますが、一部の研究者がその毒性を主張しています。なかでも米国のセネフ博士はサムセル博士と連名で5つの論文を発表し、特に過激な主張を展開しています。それは、グリホサートががん、糖尿病、末梢神経障害、肥満、喘息、感染症、骨粗しょう症、不妊、先天異常など多くの病気の原因だという意見です。

 

メスネイジ博士とアントニオ博士による反論

https://agrifact.dga.jp/faq_detail.html?id=153&category=2&page=1 large;">これらの主張に対して、英国のメスネイジ博士とアントニオ博士は論文を発表し 、以下のように反論しています。

グリホサート 濃度 href="https://agrifact.dga.jp/faq_detail.html?id=66&category=29&page=1">グリホサート large;"> 

グリホサートを含む除草剤(ラウンドアップなどの製品)の安全性について、さまざまな議論がされている。科学に基づいた研究、調査を行なっている世界の規制当局と、グリホサートを含む除草剤を販売している企業は、「規制で許容された基準値以下の量であれば、グリホサートは安全」だと結論を出している。一方で一部の科学者は、「規制で許容された基準値以下の量であっても、リスクがあるのではないか」と懸念している。

 

特にセネフ博士とサムセル博士が一連の論文で、グリホサートに長期間暴露すると、がん、糖尿病、末梢神経障害、肥満、喘息、感染症、骨粗しょう症、不妊、先天異常など多くの慢性疾患を引き起こすと主張している。しかしその主張の根拠は、誰もが正しいと思える事実を起点として、妥当な結論を導き出す「演繹的な三段論法」を不適切に適用して導いたものであり、科学的事実に基づくものではない。つまりこれらの主張は、裏付けのない理論と推測あるいは単なる間違いに過ぎない。

 

http://edition.cnn.com/search/?text=agriculture style="font-size: large;">セネフ博士とサムセル博士の議論は、グリホサートの毒性について間違った情報を伝え、市民、科学界、規制当局をミスリードするものである。

 

解説『「グリホサートは多くの病気の原因」というセネフ博士の主張は科学的に正しいのか?』では、グリホサートを危険だと主張するセネフ博士とサムセル博士の主張の「どこが」「どのように」間違っているのかについて反論の論文を書いたメスネイジ博士とアントニオ博士の主張を、著者が解説や説明を加えてわかりやくすく紹介します。

 

 

グリホサートの安全性について科学界にある論争

 

グリホサートが植物を枯らす仕組み

グリホサートは雑草も農作物も区別なく枯らすのですが、最初にその仕組みを説明します。ラウンドアップの主成分であるグリホサート(N-ホスホノメチル-グリシン)は小さな分子で、これを農場などに散布すると植物の中に入ります。植物にはシキミ酸回路という仕組みがあり、その中で、5-エノールピルビルシキミ酸3-リン酸シンターゼという酵素が働いて、植物が生きるために必要なアミノ酸を合成します。グリホサートはこの酵素の働きを止めてしまいます。すると植物は、アミノ酸を作ることができず枯れてしまいます。この働きを活用して、グリホサートは雑草を枯らす除草剤として使われています。

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世界中で1970年代から使用されているグリホサート

グリホサートは、1974年に一般発売されて以降、世界で最も多く使われる農薬になりました。さらに1996年に、遺伝子組換え技術によりグリホサートに耐性があるラウンドアップレディ作物(トウモロコシ、大豆、ナタネ、ワタ、砂糖大根、アルファルファ)が開発されました。農場にラウンドアップを散布すると、雑草は枯れてしまいますが、ラウンドアップレディ作物は生き残ります。こうして農作業の大きな部分を占める除草作業が簡単になり、グリホサートを含む除草剤の販売と使用は急激に増加しました。

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人の尿から検出されるグリホサート

人の尿からグリホサートが検出されたとの情報を目にして、不安に感じる方もいらっしゃるでしょう。人の尿からグリホサートが検出される理由と、この事実をどのように捉えれば良いかについて説明します。

 

農場などに散布されたグリホサートは、急速に分解します。作物や水、空気中など環境中にはグリホサートは存在しますが、その量は極めて微量です。しかし存在はしているため、人の尿を検査すると通常1~10μg/ℓ(1μg=0.001mg)のグリホサートが検出されます。この量は危険なのでしょうか?

 

グリホサートに関する多くの研究の中に、ラットにグリホサートを体重1kgあたり1日に60mg (60mg/kg体重/日)を2年間投与すると、肝機能に障害があらわれ、それ以下では障害は出ないという結果があります。人の尿に存在するグリホサートの量(通常1~10μg/ ℓ、つまり0.001〜0.01mg/ℓ)は、ラットに与えられた量(体重1kgあたり1日に60mg)よはるかに少ないことは明らかです。この研究から、2002年にEUはグリホサートの一日摂取許容量(ADI)を、その200分の1の体重1kgあたり1日に0.3mg(0.3mg/kg体重/日)に設定しました。その後2015年に、EUは新しい研究結果が得られたためADIを100分の1の体重1kgあたり1日に0.5mg( 0.5 mg/kg体重/日)に変更しました。ちなみにこの100分の1という安全係数は、日本の食品安全委員会をはじめ、国際機関であるJMPR(FAO/WHO合同残留農薬専門家会議)、EFSA(欧州食品安全機関)、USEPA(米国環境保護庁)も採用しています。

 

このことから分かるように、人が環境から摂取するグリホサートの量は、一日摂取許容量(ADI)よりはるかに少ないです。グリホサートを含めた化学物質に関して「検出された」ので危険だとすぐに思うのではなく、「どのくらいの量が検出され、ADIと比較してどの程度か」という視点で考えることが大切です。

 

グリホサートに関する見解の不一致

ただし微量であっても健康に影響があるのではないかと懸念されることがあります。これは議論を続けるべき課題です。グリホサートの安全性については、科学的な事実だけでなく、ビジネスやイデオロギーにも影響されます。グリホサートを含む除草剤を発売している企業は、3つの総説論文(現行の理解の状態を要約した論文)を発表し、「グリホサートは規制値以下の量では安全である」と結論しています。一方で研究者の中には、「規制値以下の量のグリホサートについては、リスク評価が不足している」と指摘する人もいます。そしてセネフ博士とサムセル博士は、5つの総説論文を発表し、「グリホサートの長期的暴露(環境中からの摂取)は、多くの慢性疾患の原因である」と主張しています。

 

グリホサートの毒性に関しては、科学の世界に極端な見解の不一致があり、混乱が生じています。そのためこの不一致の原因を、明らかにする必要があります。

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【解説】「グリホサートは多くの病気の原因」というセネフ博士の主張は科学的に正しいのか?

 

獣医師・サイエンスコミュニケーター 高畑菜穂子

日本獣医生命科学大学名誉教授 鈴木勝士

編集担当 紀平真理子

 

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ラウンドアップの主成分であるグリホサートが危険だと主張する科学者

 

除草剤ラウンドアップ(主成分グリホサート)は、世界の規制機関によってその安全性が証明されていますが、一部の研究者がその毒性を主張しています。なかでも米国のセネフ博士はサムセル博士と連名で5つの論文を発表し、特に過激な主張を展開しています。それは、グリホサートががん、糖尿病、末梢神経障害、肥満、喘息、感染症、骨粗しょう症、不妊、先天異常など多くの病気の原因だという意見です。

 

メスネイジ博士とアントニオ博士による反論

http://www.bbc.co.uk/search?q=agriculture large;">これらの主張に対して、英国のメスネイジ博士とアントニオ博士は論文を発表し 、以下のように反論しています。

 

グリホサート 安全 style="font-size: large;">グリホサートを含む除草剤(ラウンドアップなどの製品)の安全性について、さまざまな議論がされている。科学に基づいた研究、調査を行なっている世界の規制当局と、グリホサートを含む除草剤を販売している企業は、「規制で許容された基準値以下の量であれば、グリホサートは安全」だと結論を出している。一方で一部の科学者は、「規制で許容された基準値以下の量であっても、リスクがあるのではないか」と懸念している。

 

特にセネフ博士とサムセル博士が一連の論文で、グリホサートに長期間暴露すると、がん、糖尿病、末梢神経障害、肥満、喘息、感染症、骨粗しょう症、不妊、先天異常など多くの慢性疾患を引き起こすと主張している。しかしその主張の根拠は、誰もが正しいと思える事実を起点として、妥当な結論を導き出す「演繹的な三段論法」を不適切に適用して導いたものであり、科学的事実に基づくものではない。つまりこれらの主張は、裏付けのない理論と推測あるいは単なる間違いに過ぎない。

 

セネフ博士とサムセル博士の議論は、グリホサートの毒性について間違った情報を伝え、市民、科学界、規制当局をミスリードするものである。

 

解説『「グリホサートは多くの病気の原因」というセネフ博士の主張は科学的に正しいのか?』では、グリホサートを危険だと主張するセネフ博士とサムセル博士の主張の「どこが」「どのように」間違っているのかについて反論の論文を書いたメスネイジ博士とアントニオ博士の主張を、著者が解説や説明を加えてわかりやくすく紹介します。

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グリホサートの安全性について科学界にある論争

 

グリホサートが植物を枯らす仕組み

グリホサートは雑草も農作物も区別なく枯らすのですが、最初にその仕組みを説明します。ラウンドアップの主成分であるグリホサート(N-ホスホノメチル-グリシン)は小さな分子で、これを農場などに散布すると植物の中に入ります。植物にはシキミ酸回路という仕組みがあり、その中で、5-エノールピルビルシキミ酸3-リン酸シンターゼという酵素が働いて、植物が生きるために必要なアミノ酸を合成します。グリホサートはこの酵素の働きを止めてしまいます。すると植物は、アミノ酸を作ることができず枯れてしまいます。この働きを活用して、グリホサートは雑草を枯らす除草剤として使われています。

 

世界中で1970年代から使用されているグリホサート

グリホサートは、1974年に一般発売されて以降、世界で最も多く使われる農薬になりました。さらに1996年に、遺伝子組換え技術によりグリホサートに耐性があるラウンドアップレディ作物(トウモロコシ、大豆、ナタネ、ワタ、砂糖大根、アルファルファ)が開発されました。農場にラウンドアップを散布すると、雑草は枯れてしまいますが、ラウンドアップレディ作物は生き残ります。こうして農作業の大きな部分を占める除草作業が簡単になり、グリホサートを含む除草剤の販売と使用は急激に増加しました。

 

グリホサート style="font-size: large;">人の尿から検出されるグリホサート

人の尿からグリホサートが検出されたとの情報を目にして、不安に感じる方もいらっしゃるでしょう。人の尿からグリホサートが検出される理由と、この事実をどのように捉えれば良いかについて説明します。

 

農場などに散布されたグリホサートは、急速に分解します。作物や水、空気中など環境中にはグリホサートは存在しますが、その量は極めて微量です。しかし存在はしているため、人の尿を検査すると通常1~10μg/ℓ(1μg=0.001mg)のグリホサートが検出されます。この量は危険なのでしょうか?

 

グリホサートに関する多くの研究の中に、ラットにグリホサートを体重1kgあたり1日に60mg グリホサート 分解 href="https://agrifact.dga.jp/faq_detail.html?id=55&category=29&page=1">グリホサート eu (60mg/kg体重/日)を2年間投与すると、肝機能に障害があらわれ、それ以下では障害は出ないという結果があります。人の尿に存在するグリホサートの量(通常1~10μg/ ℓ、つまり0.001〜0.01mg/ℓ)は、ラットに与えられた量(体重1kgあたり1日に60mg)よはるかに少ないことは明らかです。この研究から、2002年にEUはグリホサートの一日摂取許容量(ADI)を、その200分の1の体重1kgあたり1日に0.3mg(0.3mg/kg体重/日)に設定しました。その後2015年に、EUは新しい研究結果が得られたためADIを100分の1の体重1kgあたり1日に0.5mg( 0.5 mg/kg体重/日)に変更しました。ちなみにこの100分の1という安全係数は、日本の食品安全委員会をはじめ、国際機関であるJMPR(FAO/WHO合同残留農薬専門家会議)、EFSA(欧州食品安全機関)、USEPA(米国環境保護庁)も採用しています。

 

このことから分かるように、人が環境から摂取するグリホサートの量は、一日摂取許容量(ADI)よりはるかに少ないです。グリホサートを含めた化学物質に関して「検出された」ので危険だとすぐに思うのではなく、「どのくらいの量が検出され、ADIと比較してどの程度か」という視点で考えることが大切です。

 

グリホサートに関する見解の不一致

ただし微量であっても健康に影響があるのではないかと懸念されることがあります。これは議論を続けるべき課題です。グリホサートの安全性については、科学的な事実だけでなく、ビジネスやイデオロギーにも影響されます。グリホサートを含む除草剤を発売している企業は、3つの総説論文(現行の理解の状態を要約した論文)を発表し、「グリホサートは規制値以下の量では安全である」と結論しています。一方で研究者の中には、「規制値以下の量のグリホサートについては、リスク評価が不足している」と指摘する人もいます。そしてセネフ博士とサムセル博士は、5つの総説論文を発表し、「グリホサートの長期的暴露(環境中からの摂取)は、多くの慢性疾患の原因である」と主張しています。

 

グリホサートの毒性に関しては、科学の世界に極端な見解の不一致があり、混乱が生じています。そのためこの不一致の原因を、明らかにする必要があります。

https://agrifact.dga.jp/faq_detail.html?id=108

 

ラウンドアップの安全性について:よくあるご質問(FAQ)

 

回答者:公益財団法人食の安全・安心財団理事長、東京大学名誉教授 唐木英明

回答日:2019年10月26日

更新日:2020年4月10日

注:商品名『ラウンドアップ』の有効成分名は「グリホサート」と言い、Q&Aでは2つの名称をその都度使い分けていますが、実質的には同じものだとご理解ください。

Q ラウンドアップはなぜ安全と言えるのですか?

A 化学物質の安全性を検証する世界共通の方法は「毒性学」で、日本の食品安全員会、米国環境保護庁(EPA)、欧州食品安全機関(EFSA)、世界食料機関(FAO)、世界保健機関(WHO)をはじめ、世界の各国の規制機関(※)が採用しています。

毒性学による検証手法はリスク分析法や規制科学とも呼ばれ、細胞レベルから実験動物レベルまで多くの試験を行って人体への安全を確認する方法です。とくに発がん性試験は厳しく行われています。

これらの試験で得られた安全な量に、さらに安全係数をかけて、人での安全な量を計算します。

世界の規制機関は、この毒性学的手法により人体への安全が確認された化学物質しか農薬や食品添加物としての使用を認めていません。

ラウンドアップの安全性は毒性学的手法により確認され、その使用は世界の規制機関から認められています。

(※)ドイツ連邦リスク評価研究所(BfR)、カナダ保健省病害虫管理規制局(PMRA)、オーストラリア農薬・動物用医薬品局(APVMA)、ニュージーランド環境保護局(NZ EPA)など

Q 世界の規制機関がラウンドアップの安全を確認したにもかかわらず、毒性学的手法を使った学者の論文のなかに発がん性との関連ありとする論文があるのはなぜですか?

A たしかにラウンドアップの毒性を調べた数多くの論文のなかには、発がん性と関連があるとする論文があります。

論文が正しいかどうかは「方法の適切さ」と「結果の再現性」の検証で決まります。方法の適切さは、科学の常識に従った方法を使っているのかで評価されます。

再現性とは、第三者がその研究で使用された材料・方法などを用いて同じ実験を繰り返し行った場合に、元の研究者が行ったときと同様の結果が出るのかを検討するもので、同じ結果が出て初めて「再現性がある=正しい」と判断されます。さらに、全く別の実験方法を使って、元の論文と同じ結論が得られるのかも重要な検証方法です。

世界の規制機関はこのような観点ですべての論文を十分に検討した結果、発がん性と関連があるとする論文は、方法論と再現性の点で問題があるとされ、ラウンドアップと発がん性に関連はないという結論を出しています。

 

Q 疫学調査では発がん性と関連があるという論文が出ているのはどうしてですか?

A 疫学調査の検証手法は、人の生活習慣と病気の関係を調査する方法です。ところが、人の生活習慣は実に多種多様であるため、一つの要因を病気の原因として確定することはとても難しいという疫学調査ならではの制約があります。

この制約は「相関関係と因果関係」の問題として知られ、例えば疫学調査で「薄毛の人の多くは養毛剤を使っていた。だから薄毛の原因は養毛剤である」といった間違った結論を導き出す可能性があるのです。

疫学調査でラウンドアップと発がん性の関連を示唆する論文は存在しますが、方法論に疑問点があったり、別の実験方法によりその結論が裏付けられなかったなどの問題があります。

では、疫学調査の結果が正しいかどうかはどうやって検証するのでしょうか。

それにはやはり毒性学的手法を用います。毒性学的手法によって検証し、「発がん性と関連がある」という疫学調査の結果が裏付けられて初めて結論が確定します。

疫学調査は食品の安全を確認する方法としてはあくまで参考資料であり、世界の規制機関も疫学調査だけで安全性を確定することはしていないのです。

Q 国際がん研究機関(IARC)が“おそらく発がん性がある”グループ2Aに分類しています。やはり安全とは言えないのではないですか?

A 誤解している人が多いのですが、IARCの分類は「科学的根拠の強さ」、わかりやすく言うと「発がん性が疑われると結論付けた論文がある」と言っているだけです。

そうした論文の数が一番多いものがグループ1、その次に多いものをグループ2に分類しているということです。決して実際の発がんリスクの高さ(発がん性の強さの証明)を分類したものではありません。

私たちが普段から口にする加工肉や赤身肉、あるいは理容業などと発がん性を結び付けている分類の中身を見れば、実際にそれでがん患者が出ているということではないことがよくわかると思います。

また、分類に使用した論文の中には方法論や再現性の点で疑問があるものが含まれているという批判もあります。ラウンドアップについては「発がん性はない」として多くの批判が出され、加工肉と赤身肉についても「発がん性は認められない」という論文が出されました。

要は「そういう論文があるから気をつけましょう」という程度の予防措置だと理解してください。

 

参考 国際がん研究機関(IARC)の分類表(一部)

 

 

 

グループ1

人で発がん性あり

ピロリ菌、放射線、太陽光、紫外線、アルコール飲料、加工肉(ハム、ソーセージなど)、たばこ、塗装業など120 種

 

 

グループ2A

おそらく発がん性あり

グリホサート、赤肉(牛肉、豚肉など)、熱い飲み物、美容・理容業など82 種

 

 

グループ2B

発がんの可能性あり

ワラビ、カフェ酸、鉛、メチル水銀、ガソリン、ドライクリーニング業など311 種

 

 

グループ3

分類できない

塩酸、過酸化水素、コーヒー、茶、染髪製品など500 種

 

 

 

 

Q 米国のラウンドアップ裁判でも、カリフォルニア州の裁判所が発がん性を認めたのではないですか?

A 米国の裁判では、カリフォルニア州で提訴された「ジョンソン対モンサント裁判」や、農業従事者の夫婦ががんの原因がラウンドアップだとしてモンサントを訴え20億ドル(その後大幅に減額)の賠償判決が出た裁判など、勝訴判決が下されているのは事実です。

しかしこれらの判決は、原告側弁護士の巧みな法廷戦術によって陪審員がIARC報告を発がん性の証明と誤解をした結果であり、科学的な知見に基づく判断ではありません。

グリホサート 残留基準 eu large;">そもそも原告側勝訴の裁判は民事訴訟ですから、訴えた患者側と訴えられたモンサント側のどちらの言い分が正しいかを51%対49%の心証割合で判断します。刑事事件のように99%の有罪立証は必要ないのです。

その基準にそって、個人の観察力と倫理観(感情)で判断したものです。陪審員は患者側とモンサント側の言い分のどちらが信じられるのかを判断したのであり、ラウンドアップの発がん性について判断したのではないのです。

また、別の米国裁判所の判決ではラウンドアップの発がん性リスクは証明されていないという判決も下されています。

Q 米国環境保護庁(EPA)はラウンドアップを安全と言っていますが、企業や政治の意向で真実を曲げているとは考えられませんか? 

A ご指摘の通り、米国、あるいは日本でも、たばこ産業を支持する政治家が現実にいて、政治家の活動によりたばこ規制の強弱が生じることから、そのような疑問を持つ人もいるでしょう。

しかしラウンドアップについては、米国のEPAに限らず、欧州や日本の規制機関も同じ結論を出していますし、世界の毒性学者も規制機関の判断を支持しています。世界の規制機関は科学的な事実に基づいて、中立・公正な判断をしています。

逆に、一部の国や地方自治体の政治家は、消費者の不安を解消するという理由で、科学を無視したラウンドアップの規制を行っています。政治家は民意を大事にしますが、科学者は事実を大事にします。そこに大きな違いが生まれているのです。

Q ラウンドアップが危険と安全だという意見のどちらが正しいのですか。科学の世界では結論が出ているのでしょうか?

A 安全というのが国際的な科学の世界の結論です。なぜなら国際的に化学物質の安全を確認する方法として認められているのは「毒性学」であり、その毒性学的手法では安全と評価されているからです。

毒性学者は疫学調査に関しては、あくまで参考情報として取り扱うものにとどめています。ただ、率直に言って発がん性との関連を疑う疫学者と毒性学者の話し合いは不十分であり、今後、消費者の不安を取り除くために両者が統一見解を出すことが望ましい。それは科学者の責任であると思います。 

Q グリホサートは環境中に残留するのではないですか?

A 農地に散布されたグリホサートの分解については多数のデータがあります。

除草剤のグリホサートは土壌中の微生物と光によって分解され、条件によって違いますが、早ければ2、3日、遅くとも60日ごとに半分に減っていきます。

詳しいデータは「食品安全委員会の『農薬評価書 グリホサート』2016年7月にありますので、ぜひ参照してください。

http://www.fsc.go.jp/fsciis/evaluationDocument/show/kya0100622449b

実際、農業の現場では、雑草が生えた畑にグリホサートを散布し、雑草が除去されたあとで農作物の種をまきます。発芽するころにはグリホサートは分解して土壌中からなくなっているので、発芽した作物は成長することができます。だから、農家は安心して使用できるということです。

Q パンの成分分析でグリホサートが検出されました。これは大変な問題ではないですか?

A 安心してください。化学物質の毒性(人体への影響)は量に比例し、多量なら毒性が高く、少量なら無害という特性があります。この特性を利用して化学物質の安全性は量の規制で守られているのです。

日本の食品安全委員会はグリホサートの一日摂取許容量(ADI)を1mg/kg体重/日と設定しています。一日摂取許容量というのは、ある物質を毎日一生涯にわたって摂取しても健康に悪影響がないと判断される量のことです。

一日摂取許容量の設定に当たっては、子供など影響を受けやすい人と、そうでない人との個人差もしっかりと考慮されています。ADIは体重当たりの量で決めているので、摂取しても安全な量は体重によって違い、体重50kgの大人なら一日50㎎、体重15kgの子供(約4歳)なら1日15㎎までなら害はないといった具合です。

http://edition.cnn.com/search/?text=agriculture large;">ご質問にあった市民団体の調査では、市販のパンから0.1~1.1ppm(0.1~1.1㎎/kg)程度の量が検出されたようです(http://www.zyr.co.jp/komugi/glyphosate.html)。

最も多い1kg当たり1.1㎎のグリホサートが残留したパンの摂取量に換算すると、大人なら1日で約50kg、4歳児は1日で約15kg以上食べ続けないと一日摂取許容量に達することはありません。摂取不可能な量だと理解できるはずです。

グリホサートは土壌中で短時間で分解され、環境中や農作物にほぼ残留しませんが、分析法が進歩して、これまでは測定できなかったような微量の化学物質も測定できるようになっただけなのです。微量の化学物質は数多くの食品に含まれていますが、ごく微量であれば健康に影響することはありません。

そろそろ「グリホサートが農作物に残留していた」ことだけをもって危険視するのはやめましょう。同様のニュースが流れてきても「どれだけの量が残留していたのか。どれだけの量を食べたら一日摂取許容量を超えるのか。どの量までなら人体に無害なのか」を見極め、冷静に判断してください。

Q ラウンドアップの農畜水産物への残留基準を緩和した理由は何ですか?

A たしかに2018年12月に穀物、野菜、果物、肉、魚などの食品の残留基準が一部変更されました。

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/1225-2.pdf

その変更内容を見ると、残留基準が緩和されたものはそば、小麦、なたねなど33品目。逆に厳格化されたものはえんどう、いんげん、きのこ、肉類など35品目で、その他の102品目は変更されていません。

残留基準値は、毎日の食生活でこれらの食品を食べても一日摂取許容量を超えないように、食品ごとの値を決めたもので、安全な食生活を守るための一日摂取許容量の内訳に当たります。

いい方を変えると、一日摂取許容量はコップであり、作物ごとの残留基準はコップに水を入れる小さなスプーンのようなものです。すべての作物のスプーンでコップに水を入れても、絶対にあふれ出ないように、スプーンの大きさを決めています。一部の作物のスプーンの大きさを変更しても、コップの容量を超えない限り、健康に影響はないのです。

グリホサート style="font-size: large;">今回の変更では一日摂取許容量は変えていないので、「安全基準の緩和」ではなく、安全基準の範囲内で内訳を変更したにすぎません。心配は不要です。

Q グリホサートには遺伝毒性(遺伝子に障害を与えてがんを引き起こす毒性)があるのではないですか?

A 日本の食品安全委員会は遺伝毒性に関して次のように評価(※)しています。

『各種毒性試験結果から、グリホサート投与による影響は、主に体重(増加抑制) 及び肝臓(ALT、ALP 増加等)に認められた。神経毒性、発がん性、繁殖能に対する影響及び遺伝毒性は認められなかった。』

『グリホサート(原体)の細菌を用いたDNA修復試験及び復帰突然変異試験、チャイニーズハムスター卵巣由来細胞(CHO 細胞)を用いた遺伝子突然変異試験、ラット肝細胞を用いた UDS 試験、ヒト末梢血リンパ球を用いた染色体異常試験、ラットを用いた in vivo 染色体異常試験並びにマウスを用いたin vivo 優性致死試験が実施された。結果は全て陰性であり、グリホサートに遺伝毒性はないものと考えられた。』

難しい表現が並んでいますがつまりは、多量のグリホサートを摂取すると体重減少や肝機能に影響があるものの、遺伝毒性はないと結論付けられということです。

(※)農薬評価書「グリホサート」 2016年7月 食品安全委員会

Q グリホサートは発達障害を引き起こすと聞いたことがあるのですが本当ですか?

A 一部で指摘されている新説の仮説ですね。しかし、グリホサートと発達障害の因果関係を証明した科学論文は存在しません。その仮説は間違いと考えられます。

おなじような間違いは過去にもありました。1998年に英国のウエイクフィールド医師が、子どもに三種混合ワクチンを接種すると消化管が炎症を起こして「リーキーガット」という状態になり、そこから体内に有毒たんぱく質が侵入して脳の障害が起こり、自閉症が起こるという論文を発表しました。これがメディアで大きく取り上げられて、三種混合ワクチンの接種が大きく低下しました。しかし、後日、この論文はインチキであったことが発覚して取り下げになり、ウエイクフィールド医師は医師免許をはく奪されましたが、いまだにそのような作りごとを信じている人もいます。

科学的な根拠がはっきりしない話は信用しないこと、たとえ論文になっても、その論文の内容が別の論文で確認するまでは注意深く取り扱うことが大事です。

Q 国際がん研究機関(IARC)の判断に対して世界中の科学者から批判が出ていると聞きましたが、何が問題とされているのですか?

A 世界の食品安全関連機関はグリホサートに発がん性がないと報告しているにもかかわらず、IARCが独自に「おそらく発がん性がある」と判断したことです。判断が分かれた最大の理由は、どのような科学論文に基づく判断だったのかという点です。実は、IARCが参考にした論文の選び方、選んだ論文の重要性の評価に問題があり、そのため他の機関とは異なる結論になったと考えられています。詳細は次の論文をご覧ください。

D Brusick, M Aardema, L Kier, D Kirkland,G Williams. Genotoxicity Expert Panel review: weight monsantoglobal.com/global/jp/sitecollectiondocuments/glyphosate-safety-health-jpn.pdf of evidence evaluation of the genotoxicity of glyphosate, glyphosate-based formulations, and aminomethylphosphonic acid.  Crit Rev Toxicol. 2016 Sep;46(sup1):56-74. doi: 10.1080/10408444.2016.1214680.

さらに重要な点は、IARCで評価を担当した委員会のブレア委員長が重要な調査結果を無視したことです。それは米国ノースカロライナ州とアイオワ州でラウンドアップ関連製品を散布していた農業者約4万5000人を1993年から2005年の長期にわたって調査した結果、がんになる割合が増えることはなかったという内容です。2017年7月14日配信のロイターの記事によれば、この調査結果を論文として発表する立場にあったブレア委員長自身が論文発表を故意に遅らせ、IARCの評価に間に合わせないようにした疑惑がもたれています。

この「グリホサートに発がん性はない」とする調査論文がIARCの評価に間に合えば「IARCの判断は変わっていた」と、ブレア委員長自身が認めています。その詳細は以下のWebサイトで見ることができます。

https://sciencebasedmedicine.org/the-science-behind-the-roundup-lawsuit/

 

https://campaignforaccuracyinpublichealthresearch.com/reuters-investigation-iarc-chair-ignored-data-compromising-scientific-integrity-of-findings/

Q 「ラウンドアップはがんを引き起こす」という論文を発表し、その後、論文が取り下げ処分になったセラリーニ教授が、昨年末の来日講演で「ラウンドアップは安全」と話したというのは本当ですか?

A ラウンドアップは特許が切れたので、多くの企業がほぼ同じ成分の製品を違った名前で販売しています。それらを「ラウンドアップ類似製品」と呼ぶことにします。ラウンドアップ類似製品には除草作用があるグリホサートと、その働きを助ける界面活性剤などが入っています。そして、界面活性剤の種類は製品により違います。セラリーニ教授は来日講演で、「グリホサートではなく、一部の界面活性剤などが危険」という話をしたのです。その内容は次の論文で発表されているので、その概要を紹介します。

 

 

 

 

N. Defargea, J. Spiroux de Vendômoisb, G.E. Séralinia:Toxicity of formulants and heavy metals in glyphosate-based herbicides and other pesticides. 

https://doi.org/10.1016/j.toxrep.2017.12.025

実験1:トマトの苗にグリホサートを散布しても枯れないが、各種のラウンドアップ類似製品あるいは界面活性剤を散布すると枯れた。

実験2:実験が簡単にできる人由来の培養細胞HEK293を使って試験管内での試験を行ったところ、グリホサートの毒性は低かったが、界面活性剤の毒性は種類によって大きく異なり、POEAと呼ばれる界面活性剤の毒性が最も強かった。

実験結果の解釈:ラウンドアップ類似製品の毒性は、その主成分のグリホサートの毒性を調べるだけでは不十分で、各種の界面活性剤と組み合わせた時の毒性を調べるべきである。世界の食品規制機関は「グリホサートに発がん性はない」と言い、国際がん研究機関IARCは「グリホサートにはおそらく発がん性がある」と言っている。その違いの原因は、規制機関はグリホサートの試験結果を使い、IARCはグリホサートと界面活性剤を含むラウンドアップ類似製品の疫学調査の結果を使ったという違いがあるからではないか。

 

 

 

 

この実験にはおかしなところがあります。そもそもグリホサートに除草作用があることは多くの実験で証明されているのですが、この実験1で「トマトの苗にグリホサートを散布しても枯れない」のは理解できません。次におかしな点は、実験1より界面活性剤が強い除草作用を持つことです。世界で栽培されている遺伝子組換え作物の8割は、ラウンドアップを散布しても枯れない「ラウンドアップ耐性」ですが、それはラウンドアップの主成分であるグリホサートの除草作用に耐性を持つ仕組みを持っているからです。もしラウンドアップに含まれている界面活性剤が強い除草作用を持っていたとしたら、界面活性剤には耐性を持たない「ラウンドアップ耐性」作物まで枯らしてしまうはずです。しかし、現実にはそのようなことは起こっていません。

 

ただし、この論文で一つだけ評価できるのは、実験2で示されたように「グリホサートの毒性は弱い」という科学界で一般的に認められている事実を、セラリーニ教授も認めたことです。

 

Q それではラウンドアップ類似製品に使われている界面活性剤は危険だということでしょうか?

agrifact.dga.jp/faq_detail.html?id=66&category=29&page=1 style="font-size: large;"> 

A これについて調べた論文を紹介します。

 

 

 

 

 

R Mesnage, C Benbrookb, MN. Antonioua. Insight into the confusion over surfactant co-formulants in glyphosate-based herbicides. 

https://doi.org/10.1016/j.fct.2019.03.053

ラウンドアップ類似製品の種類は多く、2012年にヨーロッパで登録されたものだけでも2000種類を超える。それらの製品には各種の界面活性剤が含まれている。それらの培養細胞に対する毒性を試験管内で調べたところ、第一世代のラウンドアップに含まれていたPOEAと呼ばれる界面活性剤の毒性はグリホサートの毒性より強かったが、1990年代中期から毒性が約100分の1の界面活性剤に変更され、特にEU内では化粧品や医薬品にも使われる安全性が高い界面活性剤に置き換えられて、懸念はなくなった。

 

 

 

 

 

要するに、今から25年ほど前までのラウンドアップ類似製品には培養細胞に対する毒性がグリホサートより強い界面活性剤が使われていましたが、現在はそのような界面活性剤は使われていないということです。

 

Q それでは25年以上前にラウンドアップを使った人は、がんになる可能性があるのでしょうか?

 

A それはありません。その理由は、第1にグリホサートに発がん性がないことは証明されています。第2に、以前使われていた界面活性剤の毒性はグリホサートより強かったのかもしれませんが、それは培養細胞に対する毒性を試験管内で調べたものであり、発がん性があるという試験結果はありません。

 

ラウンドアップ類似製品など農薬の安全性を確認するために、培養細胞や実験動物など多くの試験材料を使った約40項目の試験を行います。そして、その結果からヒトに対する毒性や発がん性などを推測します。そして、この試験に合格したものだけが農薬として使用することを許可されます。くわしい試験項目は農薬工業会のホームページを見てください。https://www.jcpa.or.jp/qa/a5_08.html

 

そもそもラウンドアップなどの農薬は作物に散布しますが、作物を収穫する時期までに分解してほとんどなくなるように作られています。界面活性剤も同様で、作物に残留し、食品といっしょに私たちが摂取する量は、あったとしても極めて微量です。どんな化学物質も大量なら毒性があり、微量なら毒性はないという用量作用関係の法則があります。従って、昔のラウンドアップに使われていた界面活性剤の毒性が現在のものより高かったとしても、当時、ラウンドアップを使った農作物を食べた人に健康に被害が出ることは考えられません。

 

農薬の場合、健康被害が最も心配されるのは、高濃度の農薬の散布に従事する農業者です。そのような人たちの健康状態を継続的に調査した米国のAgricultural Health Study(AHS)の調査論文を紹介します。

 

 

 

 

 

G Andreotti, et al. Glyphosate Use and Cancer Incidence in the Agricultural Health Study.  J Natl Cancer Inst (2018) 110(5) doi: 10.1093/jnci/djx233

米国ノースカロライナ州とアイオワ州でラウンドアップ類似製品を散布していた農業者4万5千人近くを1993年から2005年の間、調査した結果、そのうち5800人近くががんになったが、その割合はラウンドアップ類似製品を使わなかった人と変わらなかった。

 

 

 

 

 

要するに、高濃度のラウンドアップ類似製品の散布に従事する、最もリスクが高いと考えられる人たちでも、がんは増えていなかったのです。重要な事実は、「グリホサートにはおそらく発がん性がある」と判断した国際がん研究機関(IARC)のブレア委員長がこの重要なAHCの調査論文を無視したことです。そして、この調査論文があればIARCの判断は変わっていたことをブレア委員長自身が認めているのです。ということは、IARCはデータ不足のため間違った結論を出していたということになります。

https://www.reuters.com/article/us-glyphosate-cancer-data-specialreport-idUSKBN1951VZ

https://sciencebasedmedicine.org/the-science-behind-the-roundup-lawsuit/

https://campaignforaccuracyinpublichealthresearch.com/reuters-investigation-iarc-chair-ignored-data-compromising-scientific-integrity-of-findings/

 

このような事実を総合的に判断すると、ラウンドアップ類似製品の中にはグリホサートより細胞毒性が高い界面活性剤を含むものが過去にはあったのかもしれませんが、界面活性剤に発がん性があるという科学的事実はありません。そのため過去のラウンドアップ類似製品によって、がんが引き起こされるようなことはないと判断されます。

Q 医薬品は製剤で試験がされると聞きましたが、なぜ農薬では製剤ではなく有効成分の試験をするのですか?医薬品と同じような認可システムにした方が良いのではないですか?

※2020年3月20日更新・追加

A 医薬品と農薬では使用する場面が違います。医薬品は製剤そのものを人が摂取します。そのため製剤で試験をする必要があります。

一方で農薬は、製剤そのものを摂取することはありません。散布された農薬が残留した作物や水などを摂取する可能性が考えられますが、いずれの場合も残留するのは製剤のままではなく、有効成分です。ただし農薬を散布するための農薬調整時、また誤飲、誤食もしくは意図的な摂取の場面で、農薬そのものを摂取(接触)する可能性が考えられます。そのため、農薬製剤そのものの急性毒性、皮膚刺激性、眼刺激性、皮膚感作性などの試験が行われています。

Q なぜ農薬は医療品と比べて必要な試験が少ないのですか?この試験で、子どもやお年寄りなどに影響がないと言えるのですか?

※2020年3月20日更新・追加

医薬品は治療効果を得るために、「体に明らかな影響が出る多量」を使います。そのため副作用がない医薬品はありません。副作用の種類と大きさなどのデメリットを見極めるため、数多くの試験が必要です。これらの試験によりメリット(治療効果)よりデメリット(副作用)が大きいと判断された場合は、医薬品として認可されません。

一方で食品や水の残留農薬の量は、「体に何の影響もない量」を基準にしています。そのため農薬の承認に必要な試験は、どの程度の量なら「体に何の影響も出ない量」か調べることで、だから医薬品に比べて試験数は少ないのです。ただし発がん性が疑われるものに関しては、量で規制するのではなく、全て禁止にします。このように「農薬はデメリットがあれば、全て禁止」という原則があり、医薬品のようにデメリットがあっても認可されることはありません。つまり農薬は、認可されている量や使用方法を守れば、安全だと言えます。

Q グリホサートは、現存の毒性学では安全とされていますが、何世代か後に影響があるエピジェネティック毒性は考慮されていませんよね? 

※2020年3月20日更新・追加

A 一部の科学者が、グリホサートは何世代か後にエピジェネティックな(従来の遺伝子の動きではなく、遺伝子を制御する部分の働きの異常)影響が出ると主張していますね。しかし現段階では、この実験は特殊であり、科学的に正しいという検証を受けていない段階にあります。さらにグリホサートとエピジェネティック毒性に関する論文におけるグリホサートの投与経路が「腹腔内投与」ですが、私たちはグリホサートを腹腔内に注射されることはありません。そのため人の健康にどのような影響を及ぼすのかについては、何の証拠も得られていません。

 

Q agrifact.dga.jp/faq_detail.html?id=55&category=29&page=1 font-size: x-large;">グリホサートやその代謝物であるAMPAは土壌微生物によって分解されにくいので、土壌汚染が進んでいるんですよね?

※2020年4月1日更新・追加

散布されたグリホサートは、その大部分がAMPAという物質に変化します。AMPAは毒物ではありません。もし飲食物を通じて、微量のAMPAが体内に入ったとしても、何かの作用をするとは考えられません。食品安全員会が行ったグリホサートの安全性評価でも、AMPAの安全性を確認しています。

 

分析化学が進歩した現在は、1ppb(1グラム中に0.000000001グラム)程度の微量の化学物質が測定できるようになりました。土壌を測定すると、あらゆる種類の化学物質が、微量ですが見つかります。しかし、この程度の微量を土壌汚染とは言いません。

 

https://agrifact.dga.jp/faq_detail.html?id=1&category=5&page=1

 

 

ラウンドアップの安全性について:よくあるご質問(FAQ)

 

回答者:公益財団法人食の安全・安心財団理事長、東京大学名誉教授 唐木英明

回答日:2019年10月26日

更新日:2020年4月10日

注:商品名『ラウンドアップ』の有効成分名は「グリホサート」と言い、Q&Aでは2つの名称をその都度使い分けていますが、実質的には同じものだとご理解ください。

Q ラウンドアップはなぜ安全と言えるのですか?

A 化学物質の安全性を検証する世界共通の方法は「毒性学」で、日本の食品安全員会、米国環境保護庁(EPA)、欧州食品安全機関(EFSA)、世界食料機関(FAO)、世界保健機関(WHO)をはじめ、世界の各国の規制機関(※)が採用しています。

毒性学による検証手法はリスク分析法や規制科学とも呼ばれ、細胞レベルから実験動物レベルまで多くの試験を行って人体への安全を確認する方法です。とくに発がん性試験は厳しく行われています。

これらの試験で得られた安全な量に、さらに安全係数をかけて、人での安全な量を計算します。

世界の規制機関は、この毒性学的手法により人体への安全が確認された化学物質しか農薬や食品添加物としての使用を認めていません。

ラウンドアップの安全性は毒性学的手法により確認され、その使用は世界の規制機関から認められています。

(※)ドイツ連邦リスク評価研究所(BfR)、カナダ保健省病害虫管理規制局(PMRA)、オーストラリア農薬・動物用医薬品局(APVMA)、ニュージーランド環境保護局(NZ EPA)など

Q 世界の規制機関がラウンドアップの安全を確認したにもかかわらず、毒性学的手法を使った学者の論文のなかに発がん性との関連ありとする論文があるのはなぜですか?

A たしかにラウンドアップの毒性を調べた数多くの論文のなかには、発がん性と関連があるとする論文があります。

論文が正しいかどうかは「方法の適切さ」と「結果の再現性」の検証で決まります。方法の適切さは、科学の常識に従った方法を使っているのかで評価されます。

再現性とは、第三者がその研究で使用された材料・方法などを用いて同じ実験を繰り返し行った場合に、元の研究者が行ったときと同様の結果が出るのかを検討するもので、同じ結果が出て初めて「再現性がある=正しい」と判断されます。さらに、全く別の実験方法を使って、元の論文と同じ結論が得られるのかも重要な検証方法です。

世界の規制機関はこのような観点ですべての論文を十分に検討した結果、発がん性と関連があるとする論文は、方法論と再現性の点で問題があるとされ、ラウンドアップと発がん性に関連はないという結論を出しています。

グリホサート style="font-size: large;"> 

グリホサート 残留基準 eu xx-large;">Q 疫学調査では発がん性と関連があるという論文が出ているのはどうしてですか?

A 疫学調査の検証手法は、人の生活習慣と病気の関係を調査する方法です。ところが、人の生活習慣は実に多種多様であるため、一つの要因を病気の原因として確定することはとても難しいという疫学調査ならではの制約があります。

この制約は「相関関係と因果関係」の問題として知られ、例えば疫学調査で「薄毛の人の多くは養毛剤を使っていた。だから薄毛の原因は養毛剤である」といった間違った結論を導き出す可能性があるのです。

疫学調査でラウンドアップと発がん性の関連を示唆する論文は存在しますが、方法論に疑問点があったり、別の実験方法によりその結論が裏付けられなかったなどの問題があります。

では、疫学調査の結果が正しいかどうかはどうやって検証するのでしょうか。

それにはやはり毒性学的手法を用います。毒性学的手法によって検証し、「発がん性と関連がある」という疫学調査の結果が裏付けられて初めて結論が確定します。

疫学調査は食品の安全を確認する方法としてはあくまで参考資料であり、世界の規制機関も疫学調査だけで安全性を確定することはしていないのです。

Q 国際がん研究機関(IARC)が“おそらく発がん性がある”グループ2Aに分類しています。やはり安全とは言えないのではないですか?

A 誤解している人が多いのですが、IARCの分類は「科学的根拠の強さ」、わかりやすく言うと「発がん性が疑われると結論付けた論文がある」と言っているだけです。

そうした論文の数が一番多いものがグループ1、その次に多いものをグループ2に分類しているということです。決して実際の発がんリスクの高さ(発がん性の強さの証明)を分類したものではありません。

私たちが普段から口にする加工肉や赤身肉、あるいは理容業などと発がん性を結び付けている分類の中身を見れば、実際にそれでがん患者が出ているということではないことがよくわかると思います。

また、分類に使用した論文の中には方法論や再現性の点で疑問があるものが含まれているという批判もあります。ラウンドアップについては「発がん性はない」として多くの批判が出され、加工肉と赤身肉についても「発がん性は認められない」という論文が出されました。

要は「そういう論文があるから気をつけましょう」という程度の予防措置だと理解してください。

 

参考 国際がん研究機関(IARC)の分類表(一部)

 

 

 

グループ1

人で発がん性あり

ピロリ菌、放射線、太陽光、紫外線、アルコール飲料、加工肉(ハム、ソーセージなど)、たばこ、塗装業など120 種

 

 

グループ2A

おそらく発がん性あり

グリホサート、赤肉(牛肉、豚肉など)、熱い飲み物、美容・理容業など82 種

 

 

グループ2B

発がんの可能性あり

ワラビ、カフェ酸、鉛、メチル水銀、ガソリン、ドライクリーニング業など311 種

 

 

グループ3

分類できない

塩酸、過酸化水素、コーヒー、茶、染髪製品など500 種

 

 

 

 

Q 米国のラウンドアップ裁判でも、カリフォルニア州の裁判所が発がん性を認めたのではないですか?

agrifact.dga.jp/faq_detail.html?id=66&category=29&page=1 style="color: #dd0000;">A 米国の裁判では、カリフォルニア州で提訴された「ジョンソン対モンサント裁判」や、農業従事者の夫婦ががんの原因がラウンドアップだとしてモンサントを訴え20億ドル(その後大幅に減額)の賠償判決が出た裁判など、勝訴判決が下されているのは事実です。

しかしこれらの判決は、原告側弁護士の巧みな法廷戦術によって陪審員がIARC報告を発がん性の証明と誤解をした結果であり、科学的な知見に基づく判断ではありません。

そもそも原告側勝訴の裁判は民事訴訟ですから、訴えた患者側と訴えられたモンサント側のどちらの言い分が正しいかを51%対49%の心証割合で判断します。刑事事件のように99%の有罪立証は必要ないのです。

その基準にそって、個人の観察力と倫理観(感情)で判断したものです。陪審員は患者側とモンサント側の言い分のどちらが信じられるのかを判断したのであり、ラウンドアップの発がん性について判断したのではないのです。

また、別の米国裁判所の判決ではラウンドアップの発がん性リスクは証明されていないという判決も下されています。

Q 米国環境保護庁(EPA)はラウンドアップを安全と言っていますが、企業や政治の意向で真実を曲げているとは考えられませんか? 

A ご指摘の通り、米国、あるいは日本でも、たばこ産業を支持する政治家が現実にいて、政治家の活動によりたばこ規制の強弱が生じることから、そのような疑問を持つ人もいるでしょう。

しかしラウンドアップについては、米国のEPAに限らず、欧州や日本の規制機関も同じ結論を出していますし、世界の毒性学者も規制機関の判断を支持しています。世界の規制機関は科学的な事実に基づいて、中立・公正な判断をしています。

逆に、一部の国や地方自治体の政治家は、消費者の不安を解消するという理由で、科学を無視したラウンドアップの規制を行っています。政治家は民意を大事にしますが、科学者は事実を大事にします。そこに大きな違いが生まれているのです。

Q ラウンドアップが危険と安全だという意見のどちらが正しいのですか。科学の世界では結論が出ているのでしょうか?

A 安全というのが国際的な科学の世界の結論です。なぜなら国際的に化学物質の安全を確認する方法として認められているのは「毒性学」であり、その毒性学的手法では安全と評価されているからです。

毒性学者は疫学調査に関しては、あくまで参考情報として取り扱うものにとどめています。ただ、率直に言って発がん性との関連を疑う疫学者と毒性学者の話し合いは不十分であり、今後、消費者の不安を取り除くために両者が統一見解を出すことが望ましい。それは科学者の責任であると思います。 

Q グリホサートは環境中に残留するのではないですか?

A 農地に散布されたグリホサートの分解については多数のデータがあります。

除草剤のグリホサートは土壌中の微生物と光によって分解され、条件によって違いますが、早ければ2、3日、遅くとも60日ごとに半分に減っていきます。

詳しいデータは「食品安全委員会の『農薬評価書 グリホサート』2016年7月にありますので、ぜひ参照してください。

http://www.fsc.go.jp/fsciis/evaluationDocument/show/kya0100622449b

実際、農業の現場では、雑草が生えた畑にグリホサートを散布し、雑草が除去されたあとで農作物の種をまきます。発芽するころにはグリホサートは分解して土壌中からなくなっているので、発芽した作物は成長することができます。だから、農家は安心して使用できるということです。

Q パンの成分分析でグリホサートが検出されました。これは大変な問題ではないですか?

A 安心してください。化学物質の毒性(人体への影響)は量に比例し、多量なら毒性が高く、少量なら無害という特性があります。この特性を利用して化学物質の安全性は量の規制で守られているのです。

日本の食品安全委員会はグリホサートの一日摂取許容量(ADI)を1mg/kg体重/日と設定しています。一日摂取許容量というのは、ある物質を毎日一生涯にわたって摂取しても健康に悪影響がないと判断される量のことです。

一日摂取許容量の設定に当たっては、子供など影響を受けやすい人と、そうでない人との個人差もしっかりと考慮されています。ADIは体重当たりの量で決めているので、摂取しても安全な量は体重によって違い、体重50kgの大人なら一日50㎎、体重15kgの子供(約4歳)なら1日15㎎までなら害はないといった具合です。

ご質問にあった市民団体の調査では、市販のパンから0.1~1.1ppm(0.1~1.1㎎/kg)程度の量が検出されたようです(http://www.zyr.co.jp/komugi/glyphosate.html)。

最も多い1kg当たり1.1㎎のグリホサートが残留したパンの摂取量に換算すると、大人なら1日で約50kg、4歳児は1日で約15kg以上食べ続けないと一日摂取許容量に達することはありません。摂取不可能な量だと理解できるはずです。

グリホサートは土壌中で短時間で分解され、環境中や農作物にほぼ残留しませんが、分析法が進歩して、これまでは測定できなかったような微量の化学物質も測定できるようになっただけなのです。微量の化学物質は数多くの食品に含まれていますが、ごく微量であれば健康に影響することはありません。

そろそろ「グリホサートが農作物に残留していた」ことだけをもって危険視するのはやめましょう。同様のニュースが流れてきても「どれだけの量が残留していたのか。どれだけの量を食べたら一日摂取許容量を超えるのか。どの量までなら人体に無害なのか」を見極め、冷静に判断してください。

Q ラウンドアップの農畜水産物への残留基準を緩和した理由は何ですか?

A たしかに2018年12月に穀物、野菜、果物、肉、魚などの食品の残留基準が一部変更されました。

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/1225-2.pdf

その変更内容を見ると、残留基準が緩和されたものはそば、小麦、なたねなど33品目。逆に厳格化されたものはえんどう、いんげん、きのこ、肉類など35品目で、その他の102品目は変更されていません。

残留基準値は、毎日の食生活でこれらの食品を食べても一日摂取許容量を超えないように、食品ごとの値を決めたもので、安全な食生活を守るための一日摂取許容量の内訳に当たります。

いい方を変えると、一日摂取許容量はコップであり、作物ごとの残留基準はコップに水を入れる小さなスプーンのようなものです。すべての作物のスプーンでコップに水を入れても、絶対にあふれ出ないように、スプーンの大きさを決めています。一部の作物のスプーンの大きさを変更しても、コップの容量を超えない限り、健康に影響はないのです。

今回の変更では一日摂取許容量は変えていないので、「安全基準の緩和」ではなく、安全基準の範囲内で内訳を変更したにすぎません。心配は不要です。

Q グリホサートには遺伝毒性(遺伝子に障害を与えてがんを引き起こす毒性)があるのではないですか?

A 日本の食品安全委員会は遺伝毒性に関して次のように評価(※)しています。

『各種毒性試験結果から、グリホサート投与による影響は、主に体重(増加抑制) 及び肝臓(ALT、ALP 増加等)に認められた。神経毒性、発がん性、繁殖能に対する影響及び遺伝毒性は認められなかった。』

『グリホサート(原体)の細菌を用いたDNA修復試験及び復帰突然変異試験、チャイニーズハムスター卵巣由来細胞(CHO 細胞)を用いた遺伝子突然変異試験、ラット肝細胞を用いた UDS 試験、ヒト末梢血リンパ球を用いた染色体異常試験、ラットを用いた in vivo 染色体異常試験並びにマウスを用いたin vivo 優性致死試験が実施された。結果は全て陰性であり、グリホサートに遺伝毒性はないものと考えられた。』

難しい表現が並んでいますがつまりは、多量のグリホサートを摂取すると体重減少や肝機能に影響があるものの、遺伝毒性はないと結論付けられということです。

(※)農薬評価書「グリホサート」 2016年7月 食品安全委員会

Q グリホサートは発達障害を引き起こすと聞いたことがあるのですが本当ですか?

A 一部で指摘されている新説の仮説ですね。しかし、グリホサートと発達障害の因果関係を証明した科学論文は存在しません。その仮説は間違いと考えられます。

agrifact.dga.jp/faq_detail.html?id=55&category=29&page=1 large;">おなじような間違いは過去にもありました。1998年に英国のウエイクフィールド医師が、子どもに三種混合ワクチンを接種すると消化管が炎症を起こして「リーキーガット」という状態になり、そこから体内に有毒たんぱく質が侵入して脳の障害が起こり、自閉症が起こるという論文を発表しました。これがメディアで大きく取り上げられて、三種混合ワクチンの接種が大きく低下しました。しかし、後日、この論文はインチキであったことが発覚して取り下げになり、ウエイクフィールド医師は医師免許をはく奪されましたが、いまだにそのような作りごとを信じている人もいます。

科学的な根拠がはっきりしない話は信用しないこと、たとえ論文になっても、その論文の内容が別の論文で確認するまでは注意深く取り扱うことが大事です。

Q 国際がん研究機関(IARC)の判断に対して世界中の科学者から批判が出ていると聞きましたが、何が問題とされているのですか?

A 世界の食品安全関連機関はグリホサートに発がん性がないと報告しているにもかかわらず、IARCが独自に「おそらく発がん性がある」と判断したことです。判断が分かれた最大の理由は、どのような科学論文に基づく判断だったのかという点です。実は、IARCが参考にした論文の選び方、選んだ論文の重要性の評価に問題があり、そのため他の機関とは異なる結論になったと考えられています。詳細は次の論文をご覧ください。

D Brusick, M Aardema, L Kier, D Kirkland,G Williams. Genotoxicity Expert Panel review: weight of evidence evaluation of the genotoxicity of glyphosate, glyphosate-based formulations, and aminomethylphosphonic acid.  Crit Rev Toxicol. 2016 Sep;46(sup1):56-74. doi: 10.1080/10408444.2016.1214680.

さらに重要な点は、IARCで評価を担当した委員会のブレア委員長が重要な調査結果を無視したことです。それは米国ノースカロライナ州とアイオワ州でラウンドアップ関連製品を散布していた農業者約4万5000人を1993年から2005年の長期にわたって調査した結果、がんになる割合が増えることはなかったという内容です。2017年7月14日配信のロイターの記事によれば、この調査結果を論文として発表する立場にあったブレア委員長自身が論文発表を故意に遅らせ、IARCの評価に間に合わせないようにした疑惑がもたれています。

この「グリホサートに発がん性はない」とする調査論文がIARCの評価に間に合えば「IARCの判断は変わっていた」と、ブレア委員長自身が認めています。その詳細は以下のWebサイトで見ることができます。

https://sciencebasedmedicine.org/the-science-behind-the-roundup-lawsuit/

 

https://campaignforaccuracyinpublichealthresearch.com/reuters-investigation-iarc-chair-ignored-data-compromising-scientific-integrity-of-findings/

Q 「ラウンドアップはがんを引き起こす」という論文を発表し、その後、論文が取り下げ処分になったセラリーニ教授が、昨年末の来日講演で「ラウンドアップは安全」と話したというのは本当ですか?

A ラウンドアップは特許が切れたので、多くの企業がほぼ同じ成分の製品を違った名前で販売しています。それらを「ラウンドアップ類似製品」と呼ぶことにします。ラウンドアップ類似製品には除草作用があるグリホサートと、その働きを助ける界面活性剤などが入っています。そして、界面活性剤の種類は製品により違います。セラリーニ教授は来日講演で、「グリホサートではなく、一部の界面活性剤などが危険」という話をしたのです。その内容は次の論文で発表されているので、その概要を紹介します。

 

 

 

 

N. Defargea, J. Spiroux de Vendômoisb, G.E. Séralinia:Toxicity of formulants and heavy metals in glyphosate-based herbicides and other pesticides. 

https://doi.org/10.1016/j.toxrep.2017.12.025

実験1:トマトの苗にグリホサートを散布しても枯れないが、各種のラウンドアップ類似製品あるいは界面活性剤を散布すると枯れた。

実験2:実験が簡単にできる人由来の培養細胞HEK293を使って試験管内での試験を行ったところ、グリホサートの毒性は低かったが、界面活性剤の毒性は種類によって大きく異なり、POEAと呼ばれる界面活性剤の毒性が最も強かった。

実験結果の解釈:ラウンドアップ類似製品の毒性は、その主成分のグリホサートの毒性を調べるだけでは不十分で、各種の界面活性剤と組み合わせた時の毒性を調べるべきである。世界の食品規制機関は「グリホサートに発がん性はない」と言い、国際がん研究機関IARCは「グリホサートにはおそらく発がん性がある」と言っている。その違いの原因は、規制機関はグリホサートの試験結果を使い、IARCはグリホサートと界面活性剤を含むラウンドアップ類似製品の疫学調査の結果を使ったという違いがあるからではないか。

 

 

 

 

この実験にはおかしなところがあります。そもそもグリホサートに除草作用があることは多くの実験で証明されているのですが、この実験1で「トマトの苗にグリホサートを散布しても枯れない」のは理解できません。次におかしな点は、実験1より界面活性剤が強い除草作用を持つことです。世界で栽培されている遺伝子組換え作物の8割は、ラウンドアップを散布しても枯れない「ラウンドアップ耐性」ですが、それはラウンドアップの主成分であるグリホサートの除草作用に耐性を持つ仕組みを持っているからです。もしラウンドアップに含まれている界面活性剤が強い除草作用を持っていたとしたら、界面活性剤には耐性を持たない「ラウンドアップ耐性」作物まで枯らしてしまうはずです。しかし、現実にはそのようなことは起こっていません。

 

ただし、この論文で一つだけ評価できるのは、実験2で示されたように「グリホサートの毒性は弱い」という科学界で一般的に認められている事実を、セラリーニ教授も認めたことです。

 

Q それではラウンドアップ類似製品に使われている界面活性剤は危険だということでしょうか?

 

A これについて調べた論文を紹介します。

 

 

 

 

 

R Mesnage, C Benbrookb, MN. Antonioua. Insight into the confusion over surfactant co-formulants in glyphosate-based herbicides. 

https://doi.org/10.1016/j.fct.2019.03.053

ラウンドアップ類似製品の種類は多く、2012年にヨーロッパで登録されたものだけでも2000種類を超える。それらの製品には各種の界面活性剤が含まれている。それらの培養細胞に対する毒性を試験管内で調べたところ、第一世代のラウンドアップに含まれていたPOEAと呼ばれる界面活性剤の毒性はグリホサートの毒性より強かったが、1990年代中期から毒性が約100分の1の界面活性剤に変更され、特にEU内では化粧品や医薬品にも使われる安全性が高い界面活性剤に置き換えられて、懸念はなくなった。

 

 

 

 

 

要するに、今から25年ほど前までのラウンドアップ類似製品には培養細胞に対する毒性がグリホサートより強い界面活性剤が使われていましたが、現在はそのような界面活性剤は使われていないということです。

 

monsantoglobal.com/global/jp/sitecollectiondocuments/glyphosate-safety-health-jpn.pdf xx-large;">Q それでは25年以上前にラウンドアップを使った人は、がんになる可能性があるのでしょうか?

 

A それはありません。その理由は、第1にグリホサートに発がん性がないことは証明されています。第2に、以前使われていた界面活性剤の毒性はグリホサートより強かったのかもしれませんが、それは培養細胞に対する毒性を試験管内で調べたものであり、発がん性があるという試験結果はありません。

 

ラウンドアップ類似製品など農薬の安全性を確認するために、培養細胞や実験動物など多くの試験材料を使った約40項目の試験を行います。そして、その結果からヒトに対する毒性や発がん性などを推測します。そして、この試験に合格したものだけが農薬として使用することを許可されます。くわしい試験項目は農薬工業会のホームページを見てください。https://www.jcpa.or.jp/qa/a5_08.html

 

そもそもラウンドアップなどの農薬は作物に散布しますが、作物を収穫する時期までに分解してほとんどなくなるように作られています。界面活性剤も同様で、作物に残留し、食品といっしょに私たちが摂取する量は、あったとしても極めて微量です。どんな化学物質も大量なら毒性があり、微量なら毒性はないという用量作用関係の法則があります。従って、昔のラウンドアップに使われていた界面活性剤の毒性が現在のものより高かったとしても、当時、ラウンドアップを使った農作物を食べた人に健康に被害が出ることは考えられません。

 

農薬の場合、健康被害が最も心配されるのは、高濃度の農薬の散布に従事する農業者です。そのような人たちの健康状態を継続的に調査した米国のAgricultural Health Study(AHS)の調査論文を紹介します。

 

 

 

 

 

G Andreotti, et al. Glyphosate Use and Cancer Incidence in the Agricultural Health Study.  J Natl Cancer Inst (2018) 110(5) doi: 10.1093/jnci/djx233

米国ノースカロライナ州とアイオワ州でラウンドアップ類似製品を散布していた農業者4万5千人近くを1993年から2005年の間、調査した結果、そのうち5800人近くががんになったが、その割合はラウンドアップ類似製品を使わなかった人と変わらなかった。

 

 

 

 

 

要するに、高濃度のラウンドアップ類似製品の散布に従事する、最もリスクが高いと考えられる人たちでも、がんは増えていなかったのです。重要な事実は、「グリホサートにはおそらく発がん性がある」と判断した国際がん研究機関(IARC)のブレア委員長がこの重要なAHCの調査論文を無視したことです。そして、この調査論文があればIARCの判断は変わっていたことをブレア委員長自身が認めているのです。ということは、IARCはデータ不足のため間違った結論を出していたということになります。

https://www.reuters.com/article/us-glyphosate-cancer-data-specialreport-idUSKBN1951VZ

https://sciencebasedmedicine.org/the-science-behind-the-roundup-lawsuit/

https://campaignforaccuracyinpublichealthresearch.com/reuters-investigation-iarc-chair-ignored-data-compromising-scientific-integrity-of-findings/

 

このような事実を総合的に判断すると、ラウンドアップ類似製品の中にはグリホサートより細胞毒性が高い界面活性剤を含むものが過去にはあったのかもしれませんが、界面活性剤に発がん性があるという科学的事実はありません。そのため過去のラウンドアップ類似製品によって、がんが引き起こされるようなことはないと判断されます。

Q 医薬品は製剤で試験がされると聞きましたが、なぜ農薬では製剤ではなく有効成分の試験をするのですか?医薬品と同じような認可システムにした方が良いのではないですか?

※2020年3月20日更新・追加

A 医薬品と農薬では使用する場面が違います。医薬品は製剤そのものを人が摂取します。そのため製剤で試験をする必要があります。

一方で農薬は、製剤そのものを摂取することはありません。散布された農薬が残留した作物や水などを摂取する可能性が考えられますが、いずれの場合も残留するのは製剤のままではなく、有効成分です。ただし農薬を散布するための農薬調整時、また誤飲、誤食もしくは意図的な摂取の場面で、農薬そのものを摂取(接触)する可能性が考えられます。そのため、農薬製剤そのものの急性毒性、皮膚刺激性、眼刺激性、皮膚感作性などの試験が行われています。

Q なぜ農薬は医療品と比べて必要な試験が少ないのですか?この試験で、子どもやお年寄りなどに影響がないと言えるのですか?

※2020年3月20日更新・追加

医薬品は治療効果を得るために、「体に明らかな影響が出る多量」を使います。そのため副作用がない医薬品はありません。副作用の種類と大きさなどのデメリットを見極めるため、数多くの試験が必要です。これらの試験によりメリット(治療効果)よりデメリット(副作用)が大きいと判断された場合は、医薬品として認可されません。

一方で食品や水の残留農薬の量は、「体に何の影響もない量」を基準にしています。そのため農薬の承認に必要な試験は、どの程度の量なら「体に何の影響も出ない量」か調べることで、だから医薬品に比べて試験数は少ないのです。ただし発がん性が疑われるものに関しては、量で規制するのではなく、全て禁止にします。このように「農薬はデメリットがあれば、全て禁止」という原則があり、医薬品のようにデメリットがあっても認可されることはありません。つまり農薬は、認可されている量や使用方法を守れば、安全だと言えます。

Q グリホサートは、現存の毒性学では安全とされていますが、何世代か後に影響があるエピジェネティック毒性は考慮されていませんよね? 

※2020年3月20日更新・追加

A 一部の科学者が、グリホサートは何世代か後にエピジェネティックな(従来の遺伝子の動きではなく、遺伝子を制御する部分の働きの異常)影響が出ると主張していますね。しかし現段階では、この実験は特殊であり、科学的に正しいという検証を受けていない段階にあります。さらにグリホサートとエピジェネティック毒性に関する論文におけるグリホサートの投与経路が「腹腔内投与」ですが、私たちはグリホサートを腹腔内に注射されることはありません。そのため人の健康にどのような影響を及ぼすのかについては、何の証拠も得られていません。

 

Q グリホサートやその代謝物であるAMPAは土壌微生物によって分解されにくいので、土壌汚染が進んでいるんですよね?

※2020年4月1日更新・追加

散布されたグリホサートは、その大部分がAMPAという物質に変化します。AMPAは毒物ではありません。もし飲食物を通じて、微量のAMPAが体内に入ったとしても、何かの作用をするとは考えられません。食品安全員会が行ったグリホサートの安全性評価でも、AMPAの安全性を確認しています。

 

分析化学が進歩した現在は、1ppb(1グラム中に0.000000001グラム)程度の微量の化学物質が測定できるようになりました。土壌を測定すると、あらゆる種類の化学物質が、微量ですが見つかります。しかし、この程度の微量を土壌汚染とは言いません。

 

https://agrifact.dga.jp/faq_detail.html?id=1&category=5&page=1

 

 

ラウンドアップの安全性について:よくあるご質問(FAQ)

 

回答者:公益財団法人食の安全・安心財団理事長、東京大学名誉教授 唐木英明

回答日:2019年10月26日

更新日:2020年4月10日

注:商品名『ラウンドアップ』の有効成分名は「グリホサート」と言い、Q&Aでは2つの名称をその都度使い分けていますが、実質的には同じものだとご理解ください。

Q ラウンドアップはなぜ安全と言えるのですか?

A http://pssj2.jp/2006/gakkaisi/tec_info/glyphosa.pdf style="font-size: large;">化学物質の安全性を検証する世界共通の方法は「毒性学」で、日本の食品安全員会、米国環境保護庁(EPA)、欧州食品安全機関(EFSA)、世界食料機関(FAO)、世界保健機関(WHO)をはじめ、世界の各国の規制機関(※)が採用しています。

毒性学による検証手法はリスク分析法や規制科学とも呼ばれ、細胞レベルから実験動物レベルまで多くの試験を行って人体への安全を確認する方法です。とくに発がん性試験は厳しく行われています。

これらの試験で得られた安全な量に、さらに安全係数をかけて、人での安全な量を計算します。

世界の規制機関は、この毒性学的手法により人体への安全が確認された化学物質しか農薬や食品添加物としての使用を認めていません。

ラウンドアップの安全性は毒性学的手法により確認され、その使用は世界の規制機関から認められています。

(※)ドイツ連邦リスク評価研究所(BfR)、カナダ保健省病害虫管理規制局(PMRA)、オーストラリア農薬・動物用医薬品局(APVMA)、ニュージーランド環境保護局(NZ EPA)など

Q 世界の規制機関がラウンドアップの安全を確認したにもかかわらず、毒性学的手法を使った学者の論文のなかに発がん性との関連ありとする論文があるのはなぜですか?

A たしかにラウンドアップの毒性を調べた数多くの論文のなかには、発がん性と関連があるとする論文があります。

論文が正しいかどうかは「方法の適切さ」と「結果の再現性」の検証で決まります。方法の適切さは、科学の常識に従った方法を使っているのかで評価されます。

再現性とは、第三者がその研究で使用された材料・方法などを用いて同じ実験を繰り返し行った場合に、元の研究者が行ったときと同様の結果が出るのかを検討するもので、同じ結果が出て初めて「再現性がある=正しい」と判断されます。さらに、全く別の実験方法を使って、元の論文と同じ結論が得られるのかも重要な検証方法です。

世界の規制機関はこのような観点ですべての論文を十分に検討した結果、発がん性と関連があるとする論文は、方法論と再現性の点で問題があるとされ、ラウンドアップと発がん性に関連はないという結論を出しています。

 

Q 疫学調査では発がん性と関連があるという論文が出ているのはどうしてですか?

A 疫学調査の検証手法は、人の生活習慣と病気の関係を調査する方法です。ところが、人の生活習慣は実に多種多様であるため、一つの要因を病気の原因として確定することはとても難しいという疫学調査ならではの制約があります。

この制約は「相関関係と因果関係」の問題として知られ、例えば疫学調査で「薄毛の人の多くは養毛剤を使っていた。だから薄毛の原因は養毛剤である」といった間違った結論を導き出す可能性があるのです。

疫学調査でラウンドアップと発がん性の関連を示唆する論文は存在しますが、方法論に疑問点があったり、別の実験方法によりその結論が裏付けられなかったなどの問題があります。

では、疫学調査の結果が正しいかどうかはどうやって検証するのでしょうか。

それにはやはり毒性学的手法を用います。毒性学的手法によって検証し、「発がん性と関連がある」という疫学調査の結果が裏付けられて初めて結論が確定します。

疫学調査は食品の安全を確認する方法としてはあくまで参考資料であり、世界の規制機関も疫学調査だけで安全性を確定することはしていないのです。

Q 国際がん研究機関(IARC)が“おそらく発がん性がある”グループ2Aに分類しています。やはり安全とは言えないのではないですか?

A 誤解している人が多いのですが、IARCの分類は「科学的根拠の強さ」、わかりやすく言うと「発がん性が疑われると結論付けた論文がある」と言っているだけです。

そうした論文の数が一番多いものがグループ1、その次に多いものをグループ2に分類しているということです。決して実際の発がんリスクの高さ(発がん性の強さの証明)を分類したものではありません。

私たちが普段から口にする加工肉や赤身肉、あるいは理容業などと発がん性を結び付けている分類の中身を見れば、実際にそれでがん患者が出ているということではないことがよくわかると思います。

また、分類に使用した論文の中には方法論や再現性の点で疑問があるものが含まれているという批判もあります。ラウンドアップについては「発がん性はない」として多くの批判が出され、加工肉と赤身肉についても「発がん性は認められない」という論文が出されました。

要は「そういう論文があるから気をつけましょう」という程度の予防措置だと理解してください。

 

参考 国際がん研究機関(IARC)の分類表(一部)

 

 

 

グループ1

人で発がん性あり

ピロリ菌、放射線、太陽光、紫外線、アルコール飲料、加工肉(ハム、ソーセージなど)、たばこ、塗装業など120 種

 

 

グループ2A

おそらく発がん性あり

グリホサート、赤肉(牛肉、豚肉など)、熱い飲み物、美容・理容業など82 種

 

 

グループ2B

発がんの可能性あり

ワラビ、カフェ酸、鉛、メチル水銀、ガソリン、ドライクリーニング業など311 種

 

 

グループ3

分類できない

塩酸、過酸化水素、コーヒー、茶、染髪製品など500 種

 

 

 

 

Q 米国のラウンドアップ裁判でも、カリフォルニア州の裁判所が発がん性を認めたのではないですか?

https://agrifact.dga.jp style="color: #dd0000;">A 米国の裁判では、カリフォルニア州で提訴された「ジョンソン対モンサント裁判」や、農業従事者の夫婦ががんの原因がラウンドアップだとしてモンサントを訴え20億ドル(その後大幅に減額)の賠償判決が出た裁判など、勝訴判決が下されているのは事実です。

しかしこれらの判決は、原告側弁護士の巧みな法廷戦術によって陪審員がIARC報告を発がん性の証明と誤解をした結果であり、科学的な知見に基づく判断ではありません。

そもそも原告側勝訴の裁判は民事訴訟ですから、訴えた患者側と訴えられたモンサント側のどちらの言い分が正しいかを51%対49%の心証割合で判断します。刑事事件のように99%の有罪立証は必要ないのです。

その基準にそって、個人の観察力と倫理観(感情)で判断したものです。陪審員は患者側とモンサント側の言い分のどちらが信じられるのかを判断したのであり、ラウンドアップの発がん性について判断したのではないのです。

また、別の米国裁判所の判決ではラウンドアップの発がん性リスクは証明されていないという判決も下されています。

Q 米国環境保護庁(EPA)はラウンドアップを安全と言っていますが、企業や政治の意向で真実を曲げているとは考えられませんか? 

A ご指摘の通り、米国、あるいは日本でも、たばこ産業を支持する政治家が現実にいて、政治家の活動によりたばこ規制の強弱が生じることから、そのような疑問を持つ人もいるでしょう。

しかしラウンドアップについては、米国のEPAに限らず、欧州や日本の規制機関も同じ結論を出していますし、世界の毒性学者も規制機関の判断を支持しています。世界の規制機関は科学的な事実に基づいて、中立・公正な判断をしています。

逆に、一部の国や地方自治体の政治家は、消費者の不安を解消するという理由で、科学を無視したラウンドアップの規制を行っています。政治家は民意を大事にしますが、科学者は事実を大事にします。そこに大きな違いが生まれているのです。

Q ラウンドアップが危険と安全だという意見のどちらが正しいのですか。科学の世界では結論が出ているのでしょうか?

A 安全というのが国際的な科学の世界の結論です。なぜなら国際的に化学物質の安全を確認する方法として認められているのは「毒性学」であり、その毒性学的手法では安全と評価されているからです。

毒性学者は疫学調査に関しては、あくまで参考情報として取り扱うものにとどめています。ただ、率直に言って発がん性との関連を疑う疫学者と毒性学者の話し合いは不十分であり、今後、消費者の不安を取り除くために両者が統一見解を出すことが望ましい。それは科学者の責任であると思います。 

Q グリホサートは環境中に残留するのではないですか?

A 農地に散布されたグリホサートの分解については多数のデータがあります。

除草剤のグリホサートは土壌中の微生物と光によって分解され、条件によって違いますが、早ければ2、3日、遅くとも60日ごとに半分に減っていきます。

詳しいデータは「食品安全委員会の『農薬評価書 グリホサート』2016年7月にありますので、ぜひ参照してください。

http://www.fsc.go.jp/fsciis/evaluationDocument/show/kya0100622449b

実際、農業の現場では、雑草が生えた畑にグリホサートを散布し、雑草が除去されたあとで農作物の種をまきます。発芽するころにはグリホサートは分解して土壌中からなくなっているので、発芽した作物は成長することができます。だから、農家は安心して使用できるということです。

Q パンの成分分析でグリホサートが検出されました。これは大変な問題ではないですか?

A 安心してください。化学物質の毒性(人体への影響)は量に比例し、多量なら毒性が高く、少量なら無害という特性があります。この特性を利用して化学物質の安全性は量の規制で守られているのです。

日本の食品安全委員会はグリホサートの一日摂取許容量(ADI)を1mg/kg体重/日と設定しています。一日摂取許容量というのは、ある物質を毎日一生涯にわたって摂取しても健康に悪影響がないと判断される量のことです。

一日摂取許容量の設定に当たっては、子供など影響を受けやすい人と、そうでない人との個人差もしっかりと考慮されています。ADIは体重当たりの量で決めているので、摂取しても安全な量は体重によって違い、体重50kgの大人なら一日50㎎、体重15kgの子供(約4歳)なら1日15㎎までなら害はないといった具合です。

ご質問にあった市民団体の調査では、市販のパンから0.1~1.1ppm(0.1~1.1㎎/kg)程度の量が検出されたようです(http://www.zyr.co.jp/komugi/glyphosate.html)。

最も多い1kg当たり1.1㎎のグリホサートが残留したパンの摂取量に換算すると、大人なら1日で約50kg、4歳児は1日で約15kg以上食べ続けないと一日摂取許容量に達することはありません。摂取不可能な量だと理解できるはずです。

グリホサートは土壌中で短時間で分解され、環境中や農作物にほぼ残留しませんが、分析法が進歩して、これまでは測定できなかったような微量の化学物質も測定できるようになっただけなのです。微量の化学物質は数多くの食品に含まれていますが、ごく微量であれば健康に影響することはありません。

そろそろ「グリホサートが農作物に残留していた」ことだけをもって危険視するのはやめましょう。同様のニュースが流れてきても「どれだけの量が残留していたのか。どれだけの量を食べたら一日摂取許容量を超えるのか。どの量までなら人体に無害なのか」を見極め、冷静に判断してください。

Q ラウンドアップの農畜水産物への残留基準を緩和した理由は何ですか?

A たしかに2018年12月に穀物、野菜、果物、肉、魚などの食品の残留基準が一部変更されました。

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/1225-2.pdf

その変更内容を見ると、残留基準が緩和されたものはそば、小麦、なたねなど33品目。逆に厳格化されたものはえんどう、いんげん、きのこ、肉類など35品目で、その他の102品目は変更されていません。

残留基準値は、毎日の食生活でこれらの食品を食べても一日摂取許容量を超えないように、食品ごとの値を決めたもので、安全な食生活を守るための一日摂取許容量の内訳に当たります。

いい方を変えると、一日摂取許容量はコップであり、作物ごとの残留基準はコップに水を入れる小さなスプーンのようなものです。すべての作物のスプーンでコップに水を入れても、絶対にあふれ出ないように、スプーンの大きさを決めています。一部の作物のスプーンの大きさを変更しても、コップの容量を超えない限り、健康に影響はないのです。

今回の変更では一日摂取許容量は変えていないので、「安全基準の緩和」ではなく、安全基準の範囲内で内訳を変更したにすぎません。心配は不要です。

Q グリホサートには遺伝毒性(遺伝子に障害を与えてがんを引き起こす毒性)があるのではないですか?

A 日本の食品安全委員会は遺伝毒性に関して次のように評価(※)しています。

『各種毒性試験結果から、グリホサート投与による影響は、主に体重(増加抑制) 及び肝臓(ALT、ALP 増加等)に認められた。神経毒性、発がん性、繁殖能に対する影響及び遺伝毒性は認められなかった。』

『グリホサート(原体)の細菌を用いたDNA修復試験及び復帰突然変異試験、チャイニーズハムスター卵巣由来細胞(CHO 細胞)を用いた遺伝子突然変異試験、ラット肝細胞を用いた グリホサート ダイソー UDS 試験、ヒト末梢血リンパ球を用いた染色体異常試験、ラットを用いた in vivo 染色体異常試験並びにマウスを用いたin vivo 優性致死試験が実施された。結果は全て陰性であり、グリホサートに遺伝毒性はないものと考えられた。』

難しい表現が並んでいますがつまりは、多量のグリホサートを摂取すると体重減少や肝機能に影響があるものの、遺伝毒性はないと結論付けられということです。

(※)農薬評価書「グリホサート」 2016年7月 食品安全委員会

Q グリホサートは発達障害を引き起こすと聞いたことがあるのですが本当ですか?

A 一部で指摘されている新説の仮説ですね。しかし、グリホサートと発達障害の因果関係を証明した科学論文は存在しません。その仮説は間違いと考えられます。

おなじような間違いは過去にもありました。1998年に英国のウエイクフィールド医師が、子どもに三種混合ワクチンを接種すると消化管が炎症を起こして「リーキーガット」という状態になり、そこから体内に有毒たんぱく質が侵入して脳の障害が起こり、自閉症が起こるという論文を発表しました。これがメディアで大きく取り上げられて、三種混合ワクチンの接種が大きく低下しました。しかし、後日、この論文はインチキであったことが発覚して取り下げになり、ウエイクフィールド医師は医師免許をはく奪されましたが、いまだにそのような作りごとを信じている人もいます。

科学的な根拠がはっきりしない話は信用しないこと、たとえ論文になっても、その論文の内容が別の論文で確認するまでは注意深く取り扱うことが大事です。

Q 国際がん研究機関(IARC)の判断に対して世界中の科学者から批判が出ていると聞きましたが、何が問題とされているのですか?

A 世界の食品安全関連機関はグリホサートに発がん性がないと報告しているにもかかわらず、IARCが独自に「おそらく発がん性がある」と判断したことです。判断が分かれた最大の理由は、どのような科学論文に基づく判断だったのかという点です。実は、IARCが参考にした論文の選び方、選んだ論文の重要性の評価に問題があり、そのため他の機関とは異なる結論になったと考えられています。詳細は次の論文をご覧ください。

D Brusick, M Aardema, L Kier, D Kirkland,G Williams. Genotoxicity Expert Panel review: weight of evidence evaluation of the genotoxicity of glyphosate, glyphosate-based formulations, and aminomethylphosphonic acid.  Crit Rev Toxicol. 2016 Sep;46(sup1):56-74. doi: 10.1080/10408444.2016.1214680.

さらに重要な点は、IARCで評価を担当した委員会のブレア委員長が重要な調査結果を無視したことです。それは米国ノースカロライナ州とアイオワ州でラウンドアップ関連製品を散布していた農業者約4万5000人を1993年から2005年の長期にわたって調査した結果、がんになる割合が増えることはなかったという内容です。2017年7月14日配信のロイターの記事によれば、この調査結果を論文として発表する立場にあったブレア委員長自身が論文発表を故意に遅らせ、IARCの評価に間に合わせないようにした疑惑がもたれています。

この「グリホサートに発がん性はない」とする調査論文がIARCの評価に間に合えば「IARCの判断は変わっていた」と、ブレア委員長自身が認めています。その詳細は以下のWebサイトで見ることができます。

https://sciencebasedmedicine.org/the-science-behind-the-roundup-lawsuit/

 

https://campaignforaccuracyinpublichealthresearch.com/reuters-investigation-iarc-chair-ignored-data-compromising-scientific-integrity-of-findings/

Q 「ラウンドアップはがんを引き起こす」という論文を発表し、その後、論文が取り下げ処分になったセラリーニ教授が、昨年末の来日講演で「ラウンドアップは安全」と話したというのは本当ですか?

A ラウンドアップは特許が切れたので、多くの企業がほぼ同じ成分の製品を違った名前で販売しています。それらを「ラウンドアップ類似製品」と呼ぶことにします。ラウンドアップ類似製品には除草作用があるグリホサートと、その働きを助ける界面活性剤などが入っています。そして、界面活性剤の種類は製品により違います。セラリーニ教授は来日講演で、「グリホサートではなく、一部の界面活性剤などが危険」という話をしたのです。その内容は次の論文で発表されているので、その概要を紹介します。

 

 

 

 

N. グリホサート Defargea, J. Spiroux de Vendômoisb, G.E. Séralinia:Toxicity of formulants and heavy metals in glyphosate-based herbicides and other pesticides. 

https://doi.org/10.1016/j.toxrep.2017.12.025

実験1:トマトの苗にグリホサートを散布しても枯れないが、各種のラウンドアップ類似製品あるいは界面活性剤を散布すると枯れた。

実験2:実験が簡単にできる人由来の培養細胞HEK293を使って試験管内での試験を行ったところ、グリホサートの毒性は低かったが、界面活性剤の毒性は種類によって大きく異なり、POEAと呼ばれる界面活性剤の毒性が最も強かった。

実験結果の解釈:ラウンドアップ類似製品の毒性は、その主成分のグリホサートの毒性を調べるだけでは不十分で、各種の界面活性剤と組み合わせた時の毒性を調べるべきである。世界の食品規制機関は「グリホサートに発がん性はない」と言い、国際がん研究機関IARCは「グリホサートにはおそらく発がん性がある」と言っている。その違いの原因は、規制機関はグリホサートの試験結果を使い、IARCはグリホサートと界面活性剤を含むラウンドアップ類似製品の疫学調査の結果を使ったという違いがあるからではないか。

 

 

 

 

この実験にはおかしなところがあります。そもそもグリホサートに除草作用があることは多くの実験で証明されているのですが、この実験1で「トマトの苗にグリホサートを散布しても枯れない」のは理解できません。次におかしな点は、実験1より界面活性剤が強い除草作用を持つことです。世界で栽培されている遺伝子組換え作物の8割は、ラウンドアップを散布しても枯れない「ラウンドアップ耐性」ですが、それはラウンドアップの主成分であるグリホサートの除草作用に耐性を持つ仕組みを持っているからです。もしラウンドアップに含まれている界面活性剤が強い除草作用を持っていたとしたら、界面活性剤には耐性を持たない「ラウンドアップ耐性」作物まで枯らしてしまうはずです。しかし、現実にはそのようなことは起こっていません。

 

ただし、この論文で一つだけ評価できるのは、実験2で示されたように「グリホサートの毒性は弱い」という科学界で一般的に認められている事実を、セラリーニ教授も認めたことです。

 

Q それではラウンドアップ類似製品に使われている界面活性剤は危険だということでしょうか?

 

A これについて調べた論文を紹介します。

 

 

 

 

 

R Mesnage, グリホサート 論文 C Benbrookb, MN. Antonioua. Insight into the confusion over surfactant co-formulants in glyphosate-based herbicides. 

https://doi.org/10.1016/j.fct.2019.03.053

ラウンドアップ類似製品の種類は多く、2012年にヨーロッパで登録されたものだけでも2000種類を超える。それらの製品には各種の界面活性剤が含まれている。それらの培養細胞に対する毒性を試験管内で調べたところ、第一世代のラウンドアップに含まれていたPOEAと呼ばれる界面活性剤の毒性はグリホサートの毒性より強かったが、1990年代中期から毒性が約100分の1の界面活性剤に変更され、特にEU内では化粧品や医薬品にも使われる安全性が高い界面活性剤に置き換えられて、懸念はなくなった。

 

 

 

 

 

要するに、今から25年ほど前までのラウンドアップ類似製品には培養細胞に対する毒性がグリホサートより強い界面活性剤が使われていましたが、現在はそのような界面活性剤は使われていないということです。

 

Q それでは25年以上前にラウンドアップを使った人は、がんになる可能性があるのでしょうか?

 

A それはありません。その理由は、第1にグリホサートに発がん性がないことは証明されています。第2に、以前使われていた界面活性剤の毒性はグリホサートより強かったのかもしれませんが、それは培養細胞に対する毒性を試験管内で調べたものであり、発がん性があるという試験結果はありません。

 

ラウンドアップ類似製品など農薬の安全性を確認するために、培養細胞や実験動物など多くの試験材料を使った約40項目の試験を行います。そして、その結果からヒトに対する毒性や発がん性などを推測します。そして、この試験に合格したものだけが農薬として使用することを許可されます。くわしい試験項目は農薬工業会のホームページを見てください。https://www.jcpa.or.jp/qa/a5_08.html

 

そもそもラウンドアップなどの農薬は作物に散布しますが、作物を収穫する時期までに分解してほとんどなくなるように作られています。界面活性剤も同様で、作物に残留し、食品といっしょに私たちが摂取する量は、あったとしても極めて微量です。どんな化学物質も大量なら毒性があり、微量なら毒性はないという用量作用関係の法則があります。従って、昔のラウンドアップに使われていた界面活性剤の毒性が現在のものより高かったとしても、当時、ラウンドアップを使った農作物を食べた人に健康に被害が出ることは考えられません。

 

農薬の場合、健康被害が最も心配されるのは、高濃度の農薬の散布に従事する農業者です。そのような人たちの健康状態を継続的に調査した米国のAgricultural Health Study(AHS)の調査論文を紹介します。

 

 

 

 

 

G Andreotti, et al. Glyphosate Use and Cancer Incidence in the Agricultural Health Study.  J Natl Cancer Inst (2018) 110(5) doi: 10.1093/jnci/djx233

米国ノースカロライナ州とアイオワ州でラウンドアップ類似製品を散布していた農業者4万5千人近くを1993年から2005年の間、調査した結果、そのうち5800人近くががんになったが、その割合はラウンドアップ類似製品を使わなかった人と変わらなかった。

 

 

 

 

 

要するに、高濃度のラウンドアップ類似製品の散布に従事する、最もリスクが高いと考えられる人たちでも、がんは増えていなかったのです。重要な事実は、「グリホサートにはおそらく発がん性がある」と判断した国際がん研究機関(IARC)のブレア委員長がこの重要なAHCの調査論文を無視したことです。そして、この調査論文があればIARCの判断は変わっていたことをブレア委員長自身が認めているのです。ということは、IARCはデータ不足のため間違った結論を出していたということになります。

https://www.reuters.com/article/us-glyphosate-cancer-data-specialreport-idUSKBN1951VZ

https://sciencebasedmedicine.org/the-science-behind-the-roundup-lawsuit/

https://campaignforaccuracyinpublichealthresearch.com/reuters-investigation-iarc-chair-ignored-data-compromising-scientific-integrity-of-findings/

 

このような事実を総合的に判断すると、ラウンドアップ類似製品の中にはグリホサートより細胞毒性が高い界面活性剤を含むものが過去にはあったのかもしれませんが、界面活性剤に発がん性があるという科学的事実はありません。そのため過去のラウンドアップ類似製品によって、がんが引き起こされるようなことはないと判断されます。

Q 医薬品は製剤で試験がされると聞きましたが、なぜ農薬では製剤ではなく有効成分の試験をするのですか?医薬品と同じような認可システムにした方が良いのではないですか?

※2020年3月20日更新・追加

A 医薬品と農薬では使用する場面が違います。医薬品は製剤そのものを人が摂取します。そのため製剤で試験をする必要があります。

一方で農薬は、製剤そのものを摂取することはありません。散布された農薬が残留した作物や水などを摂取する可能性が考えられますが、いずれの場合も残留するのは製剤のままではなく、有効成分です。ただし農薬を散布するための農薬調整時、また誤飲、誤食もしくは意図的な摂取の場面で、農薬そのものを摂取(接触)する可能性が考えられます。そのため、農薬製剤そのものの急性毒性、皮膚刺激性、眼刺激性、皮膚感作性などの試験が行われています。

Q なぜ農薬は医療品と比べて必要な試験が少ないのですか?この試験で、子どもやお年寄りなどに影響がないと言えるのですか?

※2020年3月20日更新・追加

医薬品は治療効果を得るために、「体に明らかな影響が出る多量」を使います。そのため副作用がない医薬品はありません。副作用の種類と大きさなどのデメリットを見極めるため、数多くの試験が必要です。これらの試験によりメリット(治療効果)よりデメリット(副作用)が大きいと判断された場合は、医薬品として認可されません。

一方で食品や水の残留農薬の量は、「体に何の影響もない量」を基準にしています。そのため農薬の承認に必要な試験は、どの程度の量なら「体に何の影響も出ない量」か調べることで、だから医薬品に比べて試験数は少ないのです。ただし発がん性が疑われるものに関しては、量で規制するのではなく、全て禁止にします。このように「農薬はデメリットがあれば、全て禁止」という原則があり、医薬品のようにデメリットがあっても認可されることはありません。つまり農薬は、認可されている量や使用方法を守れば、安全だと言えます。

Q グリホサートは、現存の毒性学では安全とされていますが、何世代か後に影響があるエピジェネティック毒性は考慮されていませんよね? 

※2020年3月20日更新・追加

A 一部の科学者が、グリホサートは何世代か後にエピジェネティックな(従来の遺伝子の動きではなく、遺伝子を制御する部分の働きの異常)影響が出ると主張していますね。しかし現段階では、この実験は特殊であり、科学的に正しいという検証を受けていない段階にあります。さらにグリホサートとエピジェネティック毒性に関する論文におけるグリホサートの投与経路が「腹腔内投与」ですが、私たちはグリホサートを腹腔内に注射されることはありません。そのため人の健康にどのような影響を及ぼすのかについては、何の証拠も得られていません。

 

Q グリホサートやその代謝物であるAMPAは土壌微生物によって分解されにくいので、土壌汚染が進んでいるんですよね?

※2020年4月1日更新・追加

散布されたグリホサートは、その大部分がAMPAという物質に変化します。AMPAは毒物ではありません。もし飲食物を通じて、微量のAMPAが体内に入ったとしても、何かの作用をするとは考えられません。食品安全員会が行ったグリホサートの安全性評価でも、AMPAの安全性を確認しています。

 

分析化学が進歩した現在は、1ppb(1グラム中に0.000000001グラム)程度の微量の化学物質が測定できるようになりました。土壌を測定すると、あらゆる種類の化学物質が、微量ですが見つかります。しかし、この程度の微量を土壌汚染とは言いません。

 

https://agrifact.dga.jp/faq_detail.html?id=1&category=5&page=1